しばらくして私は生まれ育って街を離れ、知らない土地で小さなアパートを借りました。
 私は誰にも住所を教えず、仕事も辞めて、新しい土地で一人でいたかった。私を知っている人の目から逃げ出したかったのです。
 ……自分の愛した人からも。
 だけど、彼はまた手紙を出してきたのです。
 私は気が狂いそうでした。いえ、もう狂っていたのかも知れません。
 どうしてこうなってしまったのか。
 彼は私をどこまで追い詰めれば、気が済むのでしょう。
 そう思えば思うほど、彼が憎くなりました。彼をこの世から消してしまいたかった。こんな恐怖をこれからも味わうのならば、いっそ彼を殺してしまおうと思ったのです。そして、私は彼を殺す計画を立てました。
 どう殺してやろう、どう苦しめてやろう。
 そんな残忍な思考が私を支配していました。そんな時です。彼は私に今までよりももっと残酷なキズを残していたことがわかったのです。
 私は、私の中に、彼を、彼の子を宿していたのです。
 毎日が悪夢でした。
 私は私の中までも彼に犯されていたのです。
 苦しくて、怖くて、泣き叫んで。
 耐えられなかった。
 すぐにでも死んでしまいたかった。
 でも、私の薬指にはまだ赤い石のついた指輪が…
 ……死ねなかったのです。
 私の中の弱い私が叫んでいるのです。
 会えるわけもないあの人を想って…
 苦しくて、悔しくて、…彼が憎くて。



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