「じゃあ、また明日・ね?」
いつもと同じ言葉、いつもと同じ場所で君と別れた。
僕もいつもと同じ言葉で返して、自分の家への道を急ぐ。
寒い春に近い冬の夜のことだった。
そう、今年は例年よりも暖かいはずなのに。桜ももう咲きかけているのに。
なぜか今日だけは、寒かった。
寒さを凌ぐ為にコンビニに寄る。これもいつもの事だけど。すぐに出るつもりもないから、ぶらぶらする。そのおかげで、雑誌のコーナーで目に付いた猫の雑誌を衝動買いしてしまった。ついでに猫と俺の餌も買った。
「寒っ」
自動ドアから外に出るとまた身を切るような寒さが襲う。なぜか嫌がらせのようにも思えてくる。
そういえば、家に居る猫は寒がっていないだろうか?
心配になって少し急ぐ事にした。・・・親ばかなのだろう。
それが、いけなかったらしい。
目の前いっぱいに光が広がる。それが車のヘッドライトだと気付いた時にはもう遅かった。
高い音、そして鈍い音。
後者が、僕が死んだ音だった。
なんか、自分の死体が見える。
ああ、幽霊になってるんだなあって妙に納得した。お迎えも来ていないからもう少し・・・逝くまで時間があるみたいだ。
すっと近くにある壁に手を伸ばす。想像通り手が通り抜けた。面白いくらいステレオタイプな展開だ。
何も出来ない。
余りにも単純な現実だけが襲ってくる。
どうしようかなあと思って自分の周りをぼうっとまわってみる。余り気味の良いものではないけれど。
ぶつけた人も車ももう居ない。ひき逃げされたようだ。まあ、後で名乗り出てくれるかはその人の良心にかかっている。名乗り出て欲しいとは思う。結局は分かることなんだから。
そんなことを考えながらふらふらしていると、携帯が側に落ちているのに気付いた。車とぶつかった衝撃のせい、らしい。
もしかしたら・・・と思って念じて、みた。
少し間が相手から、ぴ、という機械音が響く。
動いた。
ことばを残せるようだ。少し、うれしい。
さいごに誰に何を伝えるべきなのか・・・。考えるまでもなく浮かんだのはさっき別れた、きみ。伝えることは、いままで言えなかった「ありがとう」と「愛してる」。
それしかない。そう思える僕はすこしだけしあわせなのかもしれない。
めいっぱい、普段なら恥ずかしくていえないような言葉を積み重ねる。だからきっと僕は真っ赤になっていることだろう。誰にも見えないのだろうけど。ついでに猫のこともよろしくとお願いすることにした。彼女は優しいひとだから、きっとかわいがってくれることだろう。
その時になって気付いた。
ああ、そうだ。僕を轢いた車の特徴を知らせないと。
全部を書き終えると結構長いメールになってしまった。まあ、最後のメールだから良しとしよう。
送信のボタンを押す。
すこし、時間がたってから『送信完了』の文字が出る。これで、いい。
恥ずかしいから履歴は消しておこう。
『削除完了しました』の文字と共に僕の意識も薄くなっていった。
―――さようなら。
僕の・・・君・・・
狭い部屋に着信音が鳴り響いた。
この音は「あの人」専用。
珍しいなあ、と思いながら自然に笑顔になる。すぐにメールを開いて文面を見る。
はじめは真っ赤になりながら喜んでいたのだが、段々その顔が凍りつく。
冗談か、とも思ったが前半の文を見る限り本気としか思えない。
下へ、下へ、と文を読み続けていった。
が。
『・・・僕を轢いた車の特徴 //
----- END -----
[前へ] [次へ]』
と、重要なところで切れていた。
なぜなら彼の携帯は文字がかなり入る機種だったが、彼女の携帯は全角250文字しか入らない機種だったから。