あたしたちはもうすぐ付き合い始めて3ヶ月になろうとしている。
付き合い始めた頃は電話やメールも結構してたんだけど、最近あまりしてない。
だって。春彦ってばメール送っても返事くれないんだもん。
あたしばっか送るのもなんだかやだし。でも、ほんとはすごく淋しかったりする。
声が聞きたいのに、今何してるか知りたいのに。あたしにはどうすることもできない。
忙しいときに電話かけて迷惑かけたくないじゃない。
あたしのこと、キライになっちゃったのかなぁ…?だから連絡くれないのかなぁ…。
ひとり深く考え込んじゃってダメになりそうになってたとき、メールが届いた。
珍しい。春彦からだった。
『今度の休み、どっか行こうか?』
飾りのない言葉。ほんと用件だけのメール。それでもあたしの不安を取り除くには充分すぎるモノだった。
日曜日。約束の日。あたしはいつもよりがんばって支度をする。
春彦にはいつも可愛いあたしを見ていてほしいんだもん。
駅の改札前で待ち合わせ。いつものスタイル。もう春だけど、ワンピース一枚じゃまだ肌寒いかな。
まだ時間には少し早いけど駅の階段を駆けのぼる。少しヒールが高い靴、思わずバランスをくずしかけちゃう。
もう来てるかな…?
あたしが着いたときには、春彦は既に待っていた。いつもはあたしのほうが早いのに。なんだかヘンな感じ。
彼はあたしの姿を見つけると笑顔で手をあげてくれる。そしてあたしの名前を呼んでくれる。
あたしはこう云う瞬間が好きだ。たくさんの人の中から『あたし』を見つけてくれたんだって思えるもの。
「おはよ、珍しいね。春彦がこんなに早いって」
「…早いって言っても五分前だぞ?」
「今日雨降ったらどぉしよ。傘なんて持ってきてないのにー」
「のどかには言われたくないぞ」
「だって。なんかすごく違和感あるんだもん、しょーがないでしょぉ」
「…もういいから。さて行きますか」
「うんっ」
いつもみたいにいろんなとこ見てまわったりごはん食べたりぼーっとしたり。一緒にいる時間はすごくうれしくて大事。
いつまでもこんな時間を一緒にすごせればいいなぁって思ったらなんだか急に春彦が遠くに行っちゃうような気がした。
今すぐさよならってわけじゃないのに。しあわせなのに不安で胸が締め付けられるようで苦しくなった。
きっと不安なのはあたしだけなんだろうな…。雑踏の中、あたしはいきなりたちどまってしまった。
前に進むことを忘れてしまったかのように。うしろにいた人がぶつかってきて「危ないやろーが」とか吐き捨てていった。
そんなの耳に入ってなかった。
そんなあたしを見て春彦は言った。
「お前、なんかあったのか?」
「ううん、なんでもないよ」
あたしはなんでもない振りを装おうとして精一杯笑顔を作ったつもりだった。彼は引き下がらなかった。
「なんでもないってことはないだろ。さっきから、いや、前からなんかいいたそうな顔してたんだから」
春彦はそう言うけど。
「言いたくない」
「言いたくないじゃないだろ?ほら、怒ったりしないからさ」
…怒ったりしなくても、キライになるかもしれないでしょ…。
「言われないほうが辛いって云うこともあるんだからな」
「…じゃあ言うけど」
「なに?」
もぉ。あたし言っちゃうからね。
「…ほんとは電話とかメールとかあんましくれなくて淋しいんだからぁ…。さっきだって、春彦がどっか行っちゃいそうな気がしたの」
「ばか。そんなのが好きってしょーこになるとでも思ってんのか?それから俺ってそんなに信用されてないのか?」
呆れたように春彦は言う。そんなこと言われたって、あたしはそれでものすごく悩んでるんだから。
「だって…」
「キモチなんて顔みて言わなきゃ伝わんね―だろ」
彼はそう言って、あたしを抱き寄せた。片手にはけーたいを持って。しばらくして着メロがなった。あたしのけーたいだ。
「ごめん」って言って離れて、チェックすると彼からのメールだった。
『好きなんだからそんなに不安になるなよ』
「…顔みて言わなきゃ伝わんないんじゃなかったっけ?」
顔を上げてあたしはわざと意地悪く言ってみる。春彦ったら困ってる困ってる。そんなとこかわいーんだけど。
「だからな…」
何かを言おうとした彼の言葉をあたしは唇でふさいだ。短いキスのあと、あたしは言った。
「あたしも…好きだよ」
まわりのことなんか、気にしないで。
ね。大好きなんだから。
おしまい。