内定
                        鬼神利通

 先日、ひとつ内定をもらった。長かったような、短かったような…。嬉しかった。

 この会社の存在を知ったのは一年前。特に目立ったところも無く、大企業では無い。しかし、なぜか惹かれるものがあった。不器用で飾らない、けど社員がとにかく一生懸命なところ。資本金や売上高などは関係無い。私はそこに惹かれたのだ。倍率は大手ほど高くは無いが、採用人数は少ない。それでもここに就職したい。
 今まで回った大手はうんざりだ。説明会では社員がひたすら売上高や規模を自慢し、自社のブランド名に酔いしれ、偉ぶっている。また、女性の志望者の選考基準は顔であるとも聞く。こんな所ではやっていけるわけが無いと思った。
 そうして企業回りをしているうちにこの会社にたどり着いたのだ。
 会社説明会、ここではただただ緊張していた。ただただ社員の人の話を聞いてるだけだった。社員の人に会社について質問したいことがあっても、人が大勢いる中で手を上げては聞けなかった。説明会が終わり、帰り際に社員の人と一対一で話す機会もあったが、小心者の私はそこでも社員の人に話しかけることができなかった。
 後日の一次選考は筆記と面接が同じ日にあった。筆記は大して手応えが感じられない。面接は私自身の経験や趣味等の比較的やさしい質問を中心に聞かれたが、思うようにしゃべることが出来なかった。しどろもどろになり、結局満足な回答をすることはできなかった。
 結果はもちろんダメだった。「今年がダメでも来年がある」「この会社じゃなくても優良企業はある」、そう考えようと思った。
 ふと涙が下へと進む。気持ちと重力は下に働いている。プラス思考などやっぱり無理だ。泣いた。悔やんだ。落ち込んだ。時間が一秒一秒過ぎるうちに、もう諦めようかとさえ思えてきた。他社の選考も一次試験で落ちるという日々が続いた。ただ時間だけが過ぎて行く。
 そんな私に選択肢ができた。何と、この会社が二次募集をかけるとのことだ。その二次募集には「一次募集に参加された方でも再受験して良い」という特記事項があった。
 考えた。一度受けてダメだった所をむざむざと受けに行く意味はあるのだろうか。いや、これは私にとって試練ではあるがチャンスでもある。逃げていたところで納得できる答えが見つかるはずなんてない。もう一度やってみようか…。
 私はこの二次募集にもう一度挑戦することにした。やはり私にはまだ諦めきれないという気持ちがこの会社に対してあったのだろう。この会社でどうしてもしたい仕事があるわけではない。はっきり言えば直感、そう、直感なのだ。女のカンに頼ってたいだけかもしれないが、この会社に勤めたいと思う気持ちに嘘・偽りは無い。
 私は選考までの間、OB・OG訪問に努めた。少しでもこの会社のことを知ろうと思った。会社のこと、仕事のこと、OB・OGの方数名に色々と話を聞かせてもらった。
 そうして日にちはあっという間に過ぎ、二次募集の一次選考が始まった。
 二次募集一次選考、前回と同様に筆記と面接があった。
筆記、前回よりはマシな出来だが、思ったより点数が出ない。だが、ここで焦ってはいけない。大事なのは面接なのだ。会社案内にも面接重視と記載があったのだから。
 面接前、待合室で以前の面接の記憶がふと頭をよぎる。だが、過去を振り返っている時間は無い。積極的に自分をアピールし、相手の質問に答えなければ。「落ちついていれば大丈夫」と自分に言い聞かせ、面接に臨んだ。
 うまくは言えなかったけど、一生懸命話すことはできた。話し方もうまくないし、不器用な所を面接官には見せてしまったが、やれるだけのことはやった。これでダメなら仕方が無い。諦めよう。
 良かった。結果はなぜか合格だった。筆記はやはり参考程度だったのか、面接で一生懸命さが伝わったからなのか、何はともあれ合格した。次は二次選考だ。試験は面接のみらしい。二回目の面接は最初の面接よりもさらにつっこんだことを聞いてくるはずだ。心してかからなければならない。
 二次選考、この会社の第二の面接が始まった。
 私にはもう迷いは無かった。ここで働きたいという意志、自分の良さを存分にアピールした。論理的に話をすることがきちんとできたのか、自分が何を言ったのかは頭には残らなかったが、とにかく熱く、一生懸命語った。身振り手振りで伝えた。興奮して立ちあがったりもした。「これだけ御社が好きなんだ」と最後に言った。
 結果待ちが怖い。一週間以内にメールで結果が送られてくるそうだ。眠れぬ夜を過ごした。何も手につかなかった。
 結果は二次選考も合格だった。さぁ、次は最終面接、大詰めである。
 最終面接、砦のボスである社長と一対一の真剣勝負、最後の戦いである。
 なぜだ?ここに来てなぜ身体が震える?今まできちんとやって来れたのに?なぜここまで来て急に臆病になる?
 私は最後の最後で失敗した。萎縮した自分が社長の目に映る。不採用が決定した。一週間後、その通知が来た。自分に負けた自分が悔しく思えた。

 しかし、私はひとつだけ内定がもらえた。残念ながら、やはりこの会社からはもらっていない。そう、彼氏からもらったのだ。
 知り合ったのは一年前、特に目立ったところも無く、ルックスが良いわけでもない。しかし、なぜか惹かれるものがあった。不器用で飾らない、けどとにかく一生懸命なところ。お金を持ってるかどうかは関係無い。私はそこに惹かれたのだ。ライバルは多くないけど、採用人数は一人だけ。「どうしても彼と付き合いたい」と、女のカンがそう言っている…。

 最初は緊張した。何も話せなかった。
 一対一で話す機会もあった。けど無理だった。
 諦めかけた。
 けど、彼は優しく話しかけてくれた。
 思い直した。
 食事に誘った。
 相談に乗ってもらった。
 自分のこと話した。彼のこと聞いた。
 メールした。
 電話した。
 ちょっと仲良くなった。
 考えた。少しだけ悩む。
 決心した。
 告白した。

 結果待ちの時間は5秒だった。それが一週間より長く感じられた。一瞬、時が止まったような感じになった。その止まった時を動かしてくれたのは彼だった。「うん、付き合おう」の一言で。
 午後5時23分、公園のベンチでひとつ内定をもらうことができました。私の第一志望から。

  

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