序
【改革者たちは言った。
『俺たちはもう自由だ』……と。
本当は誰も望んでなんかいなかったのに、全ての存在に彼らの言った『自由』がやってきた。
そして、彼らが現れた。】
「そう、自由なんだよ。君たちは」
落ち着いた若者の声だった。
第一印象は決して悪くない。長身で目鼻立ちのスッキリした美しい若者。
ただ、その服装だけが不自然だった。
身につけたもの何もかもが、黒。
明らかに場違いなフード付のマントを夜風になびかせ、彼はレンガの屋根の上に座っていた。
月を背に私を見るその瞳には、なにか物悲しい空気が漂っている。
嫌な予感がした。
「どうしたんだい?」
彼が立ち上がるのが見えた。
彼と私の間は屋根の上と道路、数メートルの高さと若干の水平面の差。
夜の黒に服の黒、その二つが合わさっていても月の光で動きはよくわかった。
「怖がらなくても大丈夫だよ、君にひどいことをしようなんて思っちゃいないんだ」
私の気持ちが読み取られてる?
風が吹き、彼のマントの隙間から右手がちらりと姿を見せる。黒くて分厚い、多分、辞書のようなもの。
「だ、誰なの……?」
「いいねぇ、キレイな声をしてるよ」
質問に答えることもなく、彼はその場で左手を差し出して見せる。
「髪もキレイだ……そんなに鮮やかなブラウンの髪は見たことがないよ」
何かを握り締めるような動作。
「肩くらいで切ってもいいんじゃないかな。軽くウェーブもかかってるみたいだし、そんなに伸ばしてないほうがいいかもしれないねぇ」
握り締めていたのは長い棒だった。
ゆっくりと振り上げ、素早く振り下ろすと、その先に光が宿っていた。棒の先端から直角に伸びた一条の銀光。
私もその光が何なのかは知っている。
刃物だった。