夕方5時頃、急に電話が鳴った。電話はいつでも急に鳴るものでこちらの都合は考えない、と思いながら受話器を取る。
「もしもし…あぁ、あなたでしたか。…今からですか?えぇ、喜んで。…では、のちほど。」
いつもの女だった。私が小説を書くといつも感想を話してくれる女。正体は良く知ってるつもりだ。今日も彼女の指定するファミレスに行くことになった。
夕方六時半、そのファミレスに入ると奥の方のテーブルに彼女はいた。
「急に電話してごめんね。早く話がしたかったの。」
私が席に着くなりそう言った。その彼女の得意な下から見上げる視線から逃れるためにメニューに手を伸ばした。
「さて、何にしようかな。」
私は、一通りメニューを眺め彼女にも意見を求めた。
「貴方と同じのがいいな。」
てなわけで、ミートスパゲティを2つ注文した。飲み物のアイスティーも忘れずに。
「今回は結構時間がかかったみたいね。」
「そうだな、半年以上発表してなかったのかな。冬の時はちょっと時間がなかったからなぁ。」
まぁ、バイトが忙しかったからというのが理由だ。
「久しぶりに逢えたのよ、何か言うことはないの?」
彼女は急にそう聞いてきた。私の目をじっと見つめる彼女。「う〜ん」と、うなっていると彼女はクスッと笑う。
「あいかわらずね。昔と変わってないわ、そういうところ。」
「えっ、どういうところ?」
またクスッと笑うだけの彼女であった。そんなことをしているうちにミートスパがやってきた。ここで一息つこうではないか。
たわいもない話をしながら、おおかた食べ終えてから話は本題に入った。
「それで、今回の作品はどうだった?」
アイスティーを一口飲んでから尋ねた。彼女は怪しげな視線を私に投げかける。
「そうねぇ…貴方の意見が聞きたいわ?」
「僕のかい?」
そういえば、私は何作か小説を書いているが今回のような物語ははじめてだ。今までは推理小説一筋。なぜ今回の作品にしようと思ったのは、単純にネタとして一番最初に浮かんだだけのことである。落ちも考えてたけどストーリーが変なふうに進んでいったから使えずじまい。まぁ、桃太郎も鬼から見れば危険な存在である、鬼も鬼なりに生きている、人間とかわらないものだ。ということを主題においてみたわけですが…
と、いうようなことを彼女にいってみた。うなずきながら聞き込む彼女はこういった。
「あまのじゃく。」
はいはい、私はひねくれ者のあまのじゃくですよ。
「おこった?」
「少しね。そこまではっきり言えるのは気味ぐらいなものだよ。」
でも少し微笑んで答える。ちょっとしたことでもすぐ泣いていたからね、君は。
「よかった。」
ニッコリ微笑み返してくる彼女。
「今回の作品、私好きよ。だって貴方の推理小説は難しすぎてよくわかんないもの。」
「じゃあ、次も今回のような作品にしようか?」
「本当?」
「うそ。」
少しおこった顔で私をにらむ。
「さっきのお返しだよ、あまのじゃくの。」
そう付け加えて、アイスティーを飲み干した。私の前には、ちょっと唇を尖らし横を向いてしまっていた彼女が、いつの間にか笑顔になっていたのだった。
「さて、そろそろ出ましょうか。おごるよ。」
私が伝票を取ろうとすると、彼女がそれを奪い取った。
「いいの、今日は私が払うから。いつもおごってもらうのも悪いし…。」
「う〜ん、たまにはおごられてみますか。」
「決まり、先に外に出てて。」
そう言うと彼女はお会計をしに立ち上がった。私は一足早く店の外へ出た。
「二千二百、とんで五円…か。ミニアルバムが買えるな。」
てなことを考えていた。辺りは暗くなりかけていた。あいかわらず道路には光の帯がとめどなく流れていた。