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10 結末
「おらぁ〜、これが目にはいらねぇか〜!」
泉の首に刀を押しつけ少しずつ後退りする桃太郎。左手には泉を後ろ手にして掴み、右手は刀を首に。人質にされた泉はこわばった顔で助けを求めている。
「記憶は戻ったんじゃないんですか、鬼島博士!」
指揮官が聞いたが、答えなかった。
「てめぇら、良く聞け!宝だ、宝をもってこい!ありったけの宝とヘリを用意しろ!」
桃太郎が叫ぶ。そんな彼を見て鬼島は気付いた。
…奴は人間という人種に育てられ、人間の悪い部分が体に染み付いていたんだ。だから、記憶が戻るというより人間としての本性を現したんだ。
「奴は、もう我々の希望ではない。人間だ。もっとも憎むべき人間だ。」
鬼島は指揮官にあることを伝え、桃太郎に近付いた。
「なんじゃい、おっさん。早く宝とヘリを用意しやがれ。こいつがどうなってもいいのかよ!」
刀を泉の首に押しつける。必死に逃れようとする彼女だが、力に差があり過ぎた。鬼島は桃太郎と向かい合った。桃太郎も警戒する。
「桃太郎と言ったな、宝とヘリは用意する。その前に一つ聞きたい。何故こんなことを、何故宝が必要なのだ。」
「金さ、金が欲しいのさ。この世は金がものをいう時代なんだ。金が全てだ。人間も鬼もどうだっていい、金さえ手に入ればなぁ!」
鬼島には信じられない言葉だった。今までの虐殺を忘れているような口振りであったことに。たとえ間違った相手を殺していたとはいえ、自分の使命を忠実に守り、自分の仲間を守ろうとしたことは事実だったはず。だから鬼島はまだ許せると思っていた。殺すわけにはいかないと思っていた。だが…
「金のためか、自分の欲望のため…人間の考えそうなことだ。」
桃太郎は鬼島を見た。
…こいつ、どこかで。この女もなぜか知ってる気がする…
ふと考えた桃太郎の一瞬のすきを今度は鬼島が見逃さなかった。桃太郎の刀を持つ手を掴み、泉を体から離した。鬼島と桃太郎は互いにつかみ合ったかたちになった。
「泉、早く逃げなさい。」
軍の鬼に助けられる泉。
「なめたまねしてくれるじゃねぇか、油断したぜ。でもこれからどうする?おまえでは俺は倒せんぞ。」
「軍の鬼がなんとかするさ。さっきの液体は細胞に影響を与える。筋力なども低下してるはずだ。私でも対等におまえの力を押さえられているのがその証拠だ。」
ふっ、と口の端を上げる桃太郎。
「このままでは何もできまい。貴様を人質にすることもできるんだぞ。あの女の時と同じようにな。結局は俺の勝ちってことなんだよぉ!」
桃太郎は鬼島の手をひねり後ろ手にしようとしたが、鬼島も巧みにかわす。
「泉の時とは違うさ。」
そう言って鬼島は桃太郎に抱きついた。
「なにさらすんじゃい!」
ふりほどこうとするが離れない。刀を持つ手もふさがれたままだ。
「おまえを殺す。心配するな、おまえを造った私もついていってやろう。」
「何!自分も死ぬだと!何を考えていやがる。命が惜しくないのか。」
「自分の娘におまえのような人間を造らせてしまった罪はあまりにも重い。そもそも他の種族を滅ぼそうとするからこうなったのかもしれん。自分でも愚かなことをしたと思っているよ。結果的に仲間を殺したのだからな。死んで償うよ。それが鬼のやり方だ!」
「くそっ!こんなところで死んでたまるか。」
「泉!後は頼んだ!指揮官、撃て!」
「いやぁー、やめてぇー!」
泉の願いは銃声にかき消された。
二つの死体は折り重なるようにあった。子供を守る親のように見えるのは何故だろうか…
11 世界
「おばあさんや、この頃鬼達をみなくなった。桃太郎が退治してくれたのかのぉ。」
「そうですね。そろそろ戻ってきますかねぇ。」
話していると戸が勢いよく開き、熊さんが入ってきた。
「じいさん、ばあさん大変だ。桃太郎が…」
「帰ってきたのかい?」
「まあまあ、よかったよかった。」
おじいさん達が呑気にきく。
「違うんだよ、死体になってんだよ。鬼が桃太郎の死体を運んできたんだよ!」
「な…なんじゃと?」
雨が降り出しあたりの雰囲気を暗くさせる。桃太郎は体中に傷を受け息絶えていた。そばで泣き崩れるおばあさん、死体を揺さぶるおじいさん。
「おのれ鬼め、私達の大事な桃太郎を。仇討ちじゃ、皆の者桃太郎の無念を晴らすぞ!」
おじいさんはそう叫んだ。
おじいさんと村の者は鬼を滅ぼすことを決め、周りの村人たちにも呼びかけた。そして、鬼の元へと攻めいったのであった。
今も終わることのない鬼対人間の戦いは、こうして激しさを増していったのだった。