7
9 対決、正義対正義
鬼島は考えていた。私に倒せるだろうか、娘を危険な目にあわせてもいいのか。科学者としての責任、父親としての責任。
「我々の仲間を、娘を、私は守ってみせる。」
そう誓った。娘だけでも必ず守るというのが本心かもしれない。その時、警報が鳴った。
「来たか。」
小さくつぶやくと彼は立ち上がった。あらかじめ軍と相談し協力してもらった。といっても使える人材はニ十人程度だが。
「頼むぞ、『切り札』よ。」
そして…
もやもやした煙が晴れていく。次第にはっきりしてくる景色の中に奴はいた。何十という鬼の命を奪った殺人者。しかし、その正体は…
「我々と同じ…鬼…」
その距離約五十メートル、切り札はまだ使えない。
突然、軍の指揮官が叫んだ。
「八つ裂きにしろ!」
五人の鬼が駆け出した。
桃太郎は刀を構えると一人目に来た鬼を軽くかっさばいた。あまりにもあっけなかったのか、残りの鬼が戸惑っているうちに一人また一人と斬っていく。
気付けば五つの体が倒れていた。
「私はなんて怪物を造ってしまったのだ…。」
思わず口に出していた鬼島。余りにも強過ぎた。何ができるというのだろう。
桃太郎は体の異変を感じ取っていた。あの時、初めて鬼に出会ったときのようになぜか懐かしさが込み上げてくるのだった。
何かを…思い…思い出そうと…している?
分からない。
ただ、敵を斬ること。我等人間を苦しめた鬼を斬ることが私の使命だ!
桃太郎は鬼たちに向かって走り出した。
「来た!」
鬼島は切り札を取り出し構えた。
「泉、下がっていなさい。」
娘に言い、鬼島も駆け出す。奴との距離を計り切り札を投げかけた、いや、浴びせかけた。
「…!」
頭から液体をかけられた桃太郎は何かに取りつかれたかのように暴れ出した。
「ぐぁあ、がぁあ…」
髪を振り乱し苦しむ桃太郎。泉や鬼たちはただ茫然と見ているだけだった。
「父さん、何をかけたの?」
「桃のジュースさ。」
予想外の答えに驚く鬼達。
「もちろん、ただのジュースではない。細胞、特に脳細胞に影響を与える液体だ。記憶を呼び覚ますことができるかもしれない。」
そういう鬼島にも自信はなかった。
…だが不可能じゃないはずだ、頼む、鬼に戻ってくれ。
…殺したくはない…
桃太郎は混乱し始めていた。
…記憶が交じる、俺の記憶が壊されていく…
心が、人間の心が…
俺は誰なんだ、鬼なのか?人なのか?
今まで殺したのは敵?仲間?
突然、桃太郎は雷に打たれたような衝撃が体を突き刺した。
「俺は、鬼だ。人間を滅ぼすために生まれた。」
この言葉を聞いた鬼たちに歓声があがった。桃太郎は鬼としての記憶が甦ったのだ。
「父さん、これで殺さなくていいのね。刑務所には入らないといけないのかな。」
「そうだな、刑務所には入るだろうな、ははは。」
冗談を言えるほど緊張感は途切れていた。これで無駄な血を流さないで済む、そう誰もが思っていた。
その瞬間を桃太郎は見逃さなかった。驚くほどの機敏な動きで桃太郎の腕は、泉の体を捕らえていた。
「きゃあー!」
泉の悲鳴で鬼たちは我に返った。