月と死神
                        辻 李

 晴れた日には、何故か平和という枕詞が付きまとう。
  我ながら馬鹿馬鹿しい考えだと思いながら、ランスロットは頭上の青い空を見上げ、ため息をついた。
  丁度彼の真上に、太陽の光を遮るようにして浮遊城が影を落とす。
  何処が平和だ。
  巨大な空中都市を睨みつけて、彼は舌打ちする。
  あの空に浮かぶ城の中にいる連中がこの国を支配するようになったのは、ランスロットが生まれて間もない頃だったそうだ。
  彼が生まれる前、この国は戦争をしていた。
  否、正確には他国からの侵略から自国を守っていた。
  その決着は、侵略者の勝利という形をとり、元々この国を治めていた王族は皆殺しになったという話を聞いたのは、ようやく物心ついた頃だったと、彼は記憶している。
  侵略戦争は、あまりにもあっけなく終わったらしい。
  その原因は、一重に武力の圧倒的な差にあった。
  この国は、昔から剣士を多く生んだ土地柄だった。対する侵略者は魔導師を多く生んだ土地だった。
  剣と魔法の戦いは、相手を近づけることなく呪文を唱えて敵を倒す魔導師達の勝利で終わったのだ。
  剣士は、どんなに強くても、相手の懐に入らなければその力を発揮することが出来ない。
  かつてこの国を侵略し、今はこの国の支配者となった者達は、その魔力により創り上げた巨大な空中都市から、この国を見下ろしている。
  ランスロットの両親はいずれも剣士だった。
  しかし、父は戦争で死に、母は剣を持つことを許されず、支配者たちの作った居住区で暮らしている。
  ランスロットがその母の元に帰ることができるのは、年に二回だけだ。
  何故なら、彼は今、支配者たちの手先として、兵士として戦場に立たされる駒として生きていたから。
  十二歳になった年の春、突然支配者達が、居住区にある彼の家にやってきた。
  彼等は、ランスロットの父が高名な剣士であったことを記憶していた。
  そして、その子供であるランスロットを、より楽に他国を支配するための道具として、自らの手駒にするため、彼を連れて行った。
  支配を受ける側の人間に、それを拒否する権利などあるはずがなかった。
  だから今、ランスロットは、剣士として、戦っている。
  かつての父と同じように。
  父を殺し、この国を支配した者達の手駒として――――。


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