白い冬とスリップ。
 それだけの単語で事足りる全て。
 あまりにも唐突すぎて見ていることしか出来なかった自分。全てが静止していた時間があったというのは本当のことだろう。
 生まれて初めて体験した、全てが凍りつく瞬間。
 彼が裕梨と呼んだ女性とは、もう二度と出会えることはなく……切り取った写真のような瞬間さえも白い記憶の中に閉じ込めて生きることしか出来なかった。
 一年経っても、受けた痛みが癒えることはなかった。
 ……何をする権利も、自分にはないと思えた。


 だから、少女を見て涙を流した。
 あの時流せなかった涙を……本当の気持ちを。
「裕梨さんて人、幸せだね。奇麗事しか言えないけど、誰かにそこまで愛されることなんてないよ?」
 少女が語ったのはきっと、心の底で期待していた答えだったと思える。
 確かに月並みな奇麗事だと言っても。自分が裕梨に抱いていた気持ちを証明してもらえたというだけで十分すぎる気がした。
「……ありがとう。あれから初めて気持ちが軽くなったような気がする……」
 昌人がそう言うと、話を聞いてくれていた少女はぱっと立ち上がった。
「そうそう。あんまり深く思い詰めないでね……あっ、私、そろそろ帰るね」
「……ありがとう。時間も遅いし……近くまでなら送ろうか?」
「いいよ。……昌人の、知らないところだから……じゃあね!」
 そして走り出す少女。
 その後ろ姿を見送りながら、昌人ははっとして走り出していた。
 何故……あの子は自分の名前を知っていたのか……!
「裕梨……裕梨ッ!待ってくれ!」
 通りの向こう側に消えていく少女の背中……
 いつもなら簡単に越えられるわずかな二本の車道が、今日はとてつもなく長い道のように感じられた。
 ここを渡ってしまえば、もう二度と戻ってこれないような気がして……どうしても一歩を踏み出すことが出来なかった。
 怖かったからじゃない。
 裕梨がそれを望んではいないということを心のどこかで理解していたからだ……
 少女の消えた向こう側の小さな路地。
 二度と垣間見ることのない、最後の笑顔……
 もう、立ち止まることはしない。


 春……花が咲いた。
 きれいでとても優しくて、暖かい空が微笑んでいる。


 夏……蝉が鳴いている。
 暑いのは好きじゃないけれど、思い出は沢山出来た。


 秋……葉が舞い落ちるのを見る。
 赤いイメージはいつも物憂げな色を纏っている。
 

 冬……白い雪が舞ったりもする。
 彼女がくれた希望のかけらを見つけられたから……


     ――今は、空を見上げられる――


『postscript』
 これは柄じゃないと言われるでしょうか。
 本当はもう少し長めでしっかりした話にしてあったんですが、時間の都合で展開が早くなってしまいました。
 技術的にはまだまだで、本当に書きたい場所の描写が届くかどうかも疑問なんですが……そこは想像力でカバーして頂くということで。じきに、もっとマシな文を書けるようになる予定です。
 ……勿論、予定は未定ですが。
 とにかく、読んで頂けたのなら……ありがとうございました。

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