動機
                        えむ


 なぜ人は罪を犯すのでしょう。


 「なぜ、殺したのですか」
 「さあ…何故でしょうね」
 「なぜ、あの人を殺したのですか」
 「私にも…わかりません」
 「それじゃあ、誰でも良くて、ただ人を殺したかっただけだというのですか」
 「そう、そうかも知れませんね」
 「わからない…僕には貴女が理解できない」
 僕はそう言って頭を振った。僕にはいまだに信じられなかった。
 目の前にいる彼女がどうして人を殺したのか。
 こんな暗い小さな部屋で、しかも僕と彼女の間には、決して触れ合えない境界が、透明のガラスで仕切られている。
 僕は彼女を見た。彼女はほほ笑んでいた。
 「理解なんてしなくてもいいのです。真実なんて、理解しても私が犯した罪は変わらない.罪は消えないのです」
 「そうであっても…僕は貴女の真実が知りたい」
 「…なぜ?」
 僕は小さく首を横に振った。
 「自分でも分かりません。でも、僕の中の何かが貴女を知りたがっている。そして、僕は貴女が貴女の心を聞いて欲しいと…叫んでいるように思えてならないのです」
 僕はどうしても彼女の動機を聞かなければならない、僕の魂がそう叫んでいるのだ。
 「まあ…自分勝手な解釈ですね」
 彼女は口に人差し指を当てて笑っている。
 僕も少しほほ笑んで見せた。
 「亡くなった人も貴女の本心を聞かなければ、浮かばれないというものです」
 「死んだ人間に聞かせても…、と思いますけれど?」
 彼女はまだほほ笑んでいる。僕は指を組んで彼女を見つめた。
 彼女は肩をすくめて小さくため息をついた。
 「勝手な方…いいでしょう、全てお話し致します」


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