『かみのさつじんあんじ』     霧菜 楓


  すがすがしく晴れた空を恨めしく思いながら、間宮早麻は英語の問題を前にしていた。

  明日ある、英語のテストの為に勉強をしているのだが、暗礁に乗り上げたらしくここ数分間は唸り声しか発していない。

  ダイニングで勉強をしている彼はふと、リビングでくつろいでいる弟の早太をみやった。

  とりあえず勉強している兄に遠慮してかヘッドホンで洋楽を楽しんでいる様だが、その幸せそうな表情が憎らしくてたまらない。

  テストがあるのは変わらないはずなのに、この余裕はなんなのだ。

  パキッ。

  力をこめすぎてシャープペンの芯が折れる。

  かちかちと芯を出していると、頭上から声がかかった。

 「早麻くん。ご飯のしたくするからどけてくれる」

  へらへらと笑いながら、父耕平は穏やかに家事を営む。
 
  うれない小説家である彼は刑事として家を開ける母。奏のかわりに一切の家事を取り仕切っている。いわゆる主夫だ。

  食事はもちろんの事、洗濯掃除もすべて耕平の仕事である。

   嫌な素振りを見せないところ、家事は好きなのだろう。どこのスーパーが安いとか詳しく、学校の帰りに恥ずかしげもなく奥様方の井戸端会議に出席している姿をなん度か見た事があった。

「ああ、わりぃ。すぐかたづけるから」

 ノート類をまとめ、退散する準備を整える。とりあえず持てる分だけをもってリビングに移動した。テーブルを拭こうとした耕平は残された辞書に手が止まる。

「英語? テストあるの」
   ぺらぺらとなつかしそうに英語の辞書(父から寄贈)をめくる。

「月曜にあるよ。ま、誰かさんは勉強しなくても点は取れるらしいけどね」

「べつに、赤点を取るような真似はしない。それに普段の授業を聞いていれば足りる事だろう」

「悪かったな、要領悪くて」

「誰も要領の話はしていない。記憶力の問題だ」

「ダメな片割れで悪ぅございましたね」

「まーまー。じゃあ、どっちが英語に長けてるか推理クイズしない?」

 険悪になりかけた空気を払拭させるかのごとく、耕平は笑顔を振り撒く。

 殺気を削がれてしまって、二人は同時に息を吐き出した。

 この父には勝てないと思う。

「じゃあ、死ぬ直前の犯人とかを特定する伝言の事をなんていうかな」

「ダイニングメッセージ?」

「ダイイングメッセージだろ。それじゃ、台所の伝言になるぞ」

 小ばかにした笑いに、早麻が鋭く早太を睨んだ。

 しかし、早太は相手にせず涼しい顔でダイニングまで歩み寄ってくる。

 早麻と向き合う様に座ると腕を組んだ。

 耕平は食器だなの引き出しからいつかの千羽鶴用に買った折り紙を数枚持ち出してきてテーブルの上に並べた。

 そして広告の裏に数名の名前と現場を書く。



上げられた名前は以下。

  田村 透     たむらとおる
  渡辺 仁矢    わたなべじんや
  小泉 かおり   こいずみかおり
  蒲生 潤一郎  がもうじゅんいちろう
  三村 亘     みむら わたる
  茜沢 項羽    あかねざわ こうう
  関   織弥    せき    おりや






 現場は誰でも入れるような部屋で、彼女は偶然置いてあった色紙のうち一枚を握り締めて死んでいたのだという。

 現場にあった折り紙の色は次の通り。

  
  青
  水色
  黄色 
  緑
  赤
  黄緑
  



 黄色の紙を握り締めて死んでいた。

 そしてその紙には被害者が事切れる前に塗りつけただろう血痕が余すところ無く付着している。。


 被害者の女性は画家の卵だったという。




「とりあえず、現場はここまでね」

 紙に書き終えた耕平は嬉しそうにペンのキャップを閉じると二人の息子の反応を覗った。

 唸っている早麻に、眉間にしわをよせている早太。

「これだけじゃわからない。被害者の当時の状況が知りたい」

「あ、オレも知りてぇ」

「いいよ。彼女は大学の入試に虹のイラストで入学した。彼女は虹が好きだったらしい。

 それと、学校では語学に力を入れて、最近は英会話を習い始めた。

 そして最大のポイントは彼女が芸術大に通っていた事だよ」

 にんまりと耕平は笑って、ダイニングを後にした。

 推理をしている二人の目が輝いているのを見ると、たまらなく嬉しそうに微笑む。

 そして、彼らが答えに辿りつけるだろう時間を考えて昼食を作り始めた。


 もちろん、鼻歌など交えながら。





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