なんじゅうねん、なんびゃくねん。
おかじま ねこた
あたしがそのきらきらの景色を見た時、それは初めてのキモチだった。
赤とか白とか、お日様の光にはない光の色。それはあたしにとって初めての感覚だった。
何故か涙が出た。
「おかあさん!」
転がるように走って走って、家まで走って帰ってきたあたしは、おかあさんの胸にふかっ、と飛び込んで、言った。
「ねね、おかあさん! あのね!」
「んっ? どうしたの? コノハちゃん?」
コノハ、とあたしの名前を呼んで、お母さんはあたしの頭を撫でてくれる。
「んーとね、あのネ。
さっきお社さんの方に行ってみたの。
そしたら、一杯ヒトがいてネ」
まあ、と声を出して、おかあさんは微笑んでいた。
「こんな夜遅くに、一人で出て行ってはダメよ」
「うん、ゴメンナサイ。
だけど、すごく騒がしかったから、こっそり行ってみたのネ。
そうしたら、いっぱいヒトがいたの!
あんなにヒトを見たの、生まれて初めてだよ!」
「そう」
おかあさんはあたしの髪の毛をゆっくりやさしく撫でてくれながら、あたしにお話しをしてくれた。
「それは、《おまつり》って言うの」
「《おまつり》?」
きょとんとしているあたしに、おかあさんは優しく微笑んで、
「そう。《おまつり》よ。
ヒト達が、神様のお祝いをするの。それで、神様を楽しませようとして、いっぱい騒いでいるのよ」
「ふーん」
「でもね……」
おかあさんが唇を開こうとした、そのとき、
「コラッ! コノハ!」
「きゃっ!」
急にぬっ、とやってきたのは、あたしのおとうさん。
ちょっとぽっちゃりしていて、怒るととっても怖い。
「こんな夜中に、一人でどうして出歩いたんだ!」
ずかずかとあたしの前まで歩いてきて、
ぽかり!
と、お母さんに抱かれて動けない、あたしの頭を叩いた。
「ふぇっ! ごめんなさーい」
「まあまあ、あなた。これで許してあげてくださいな」
「む……まあ、これにこりて、もう近づいちゃだめだぞ」
「うん……」
あたしはこくりとうなずいて、お母さんの身体から離れて立ち上がった。
「そうだ! おとうさんとおかあさんに、プレゼントがあるの! さっき、その《おまつり》で、見つけてきたんだよっ」
あたしの言葉に、おとうさんとおかあさんは顔を見合わせて、ちょっと驚いた顔をした。
「コノハ……」
「ウン。大した物じゃないケドね、受け取って欲しいんだ」
おとうさんはさっきまで怒っていた顔をゆるめて、
「そうか。じゃあ、せっかくだから頂こうかな」
「そうね。コノハちゃん、何をくれるのかしら?」
あたしはおとうさんとおかあさんに瞳を閉じてもらって、
「はいっ、おかあさんからネ」
ゆっくりと瞳を開いたおかあさんに、あたしは木の傍に隠しておいた、綺麗な白い花を差し出した。
「まあ」
「きれいでしょっ。お社さんの近くに咲いていたんだヨ」
「ありがとう、コノハちゃん」
おかあさんは凄く喜んでくれたみたいで、あたしの頭をいっぱい撫でてくれた。
「おうい、コノハぁ。おとうさんはいつまでこうやっていればいいのかな?」
ずっと瞳をつむっていたおとうさんは、あたしに言った。
「うん、おとうさん。ちょっとしゃがんで」
「しゃがむのかい?」
「うん」
あたしの言葉通り、おとうさんはあたしの目線までしゃがんでくれた。
「それで、おとうさんはどうすればいいんだ?」
「はいっ、瞳を開けてー」
ゆっくりと瞳を開けたおとうさんの左眼の辺りに左手を置いて、その上から、自分の握った右手で叩きつけた。
「シッ……!」
カッ。
そんな音がしてあたしの技が炸裂した。おとうさんは自分の瞳をおさえて後ろへもんどりうつ。
「どう? おとうさん。
古流殺法眼底砕き。
お社さんの裏に落ちていた本に書いてあったの」
「まあ、コノハちゃんったら」
おかあさんは、冷やした布をおとうさんの瞳にあてながら、あたしに言った。
「余りオイタはダメよ。
その技は、直接脳を損傷させる技なのよ。
遊び半分に使っちゃいけないの」
「はーいっ」
おかあさんがおとうさんの看病を始めたから、あたしはおふとんに入りながら、ふとおかあさんの背中に向かって、
「あのね? おかあさん」
「なぁに?」
「さっきの技、どうしておかあさん良く知ってたの?」
おかあさんは少し微笑みながら、
「おかあさんもネ、子供の頃に良く使ってたのヨ。
おとうさんと喧嘩しては、よくやってたわ」
「ふーん」
あたしはおふとんに入っていると、なんだかぬくぬくして来たので、そのまま眠たくなってしまった。
next →