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「・・・ねえ、今すぐじゃなくてもいいんでしょ?今日位は一緒にいてよ」
常茂は不意にそんなことを言った。確かに、すぐでなくてもいい。だが・・・
「でも、先延ばししたら決意が鈍るから・・・」
「んー・・・でもデザート食べる時間くらい、いいでしょ?最後の晩餐なんだから。眞城の好きな林檎、一緒に食べよ?」
そう言うと返事も聞かずにキッチンのほうへ常茂は走っていった。
まあ、それ位ならいいかあ、と眞城は思い直す。何より林檎が大好物、というのが重要な決め手だったのだが。
「うさぎにしよっか?」
いつもと変わらない調子で言う常茂になんともいえない気持ちになる。キッチンに立つ後姿を見ていられるのもこれで最後なんだと思うと声も出ない。
「ねえ?」
「あ・・・ああ、お願い」
とんとんと包丁の軽い音がしてきた。
感慨に耽りながらぼおっとしていたら、結構時間が経っていたらしい。傍らに、常茂が立っていた。
ことんとうさぎさんの林檎が机の上に置かれた。
「ありがとう・・・?」
そう言って見た常茂の顔は笑っていた。見たことの無いような、顔で。
「ねえ、眞城はしあわせ?私と居て」
「ああ、勿論。しあわせだよ」
「よかったあ」
その声と同時に眞城の腹に鈍い痛みが走った。真っ白な部屋を、血が花が咲いたように真っ赤に空間を染めていく。
刺されたのだ、包丁で。
「ひとりは、いやなの」
そう常茂は言うと正確に眞城の頚動脈を切った。
血が噴水のように噴出し、部屋だけでなく常茂をも染めた。
それからしばらくの間、常茂は植木鉢をぼうっと眺め続けていた。それは、彼との一番はじめのデートの時に一緒に選んだものだった。
植木鉢のなかに狭苦しそうに根を張っているそれは、なんだか自分のようだ。そう思った彼女は赤く染まった服のままで植木を持って庭へ出て、小さなスペースにそれを移し植えた。
春になると、淡い色の花をつける潅木、ヒース。
彼に・・・自分に最も相応しい、華。
その華が永遠に咲くことを願った。
「孤独」という花言葉の華が、自分たちに代わり永遠になれるように、と。
その作業が終わってから、常茂は変わり果てた眞城の傍に行った。その手には彼を刺した包丁を持って。
「これで、ふたり、ずっと一緒よ・・・」
そう言うと、彼女もまた、自分の人生に自ら幕を引いた。
癒えなかったコトバをアナタへ・・・
罪重ねた想いは膿に還って逝く
不快感、ごく小さな ひかり
それさえ消し去り、遺るのはこころの
――――――遺体