数日が経った。ほとんど毎日ミクちゃんとサトルはドラゴンを見に来た。ほんとに好きらしい。そのドラゴンは火を吐いてクッションを燃やしたりした。恐ろしい能力の開花が始まろうとしていた。まぁドラゴンだから当然なんだけど。僕の感じた恐ろしさというのはあの時だけのものだったらしい。理由なんて僕にはわからなかったけど。
 そして、その日、時間が起こった。家に帰ってみると、母さんが慌てていた。普段、母さんは取り乱したりすることがほとんどないんだけど。病院、病院に連れて行かなくちゃ、とくりかえし言っている。
 今朝父さんはちゃんと会社に行った。てことは…。残るはドラゴンしかいなかった。
 僕は急いで様子を見に走る。行儀悪いけど、こういうときは見逃して。て言っても母さんは呆然としてるし。
 すごい熱だった。ドラゴンの平熱が何度だとかなんて知らないけどすごい熱としか言い様がなかった。でも、犬や猫と違って普通の動物病院になんか連れて行けるわけない。家で看病するしかなかった。
 犬と同じ様に小さく震えている。目をじっとみつめてやる。…怖くなんかなかった。守ってやらなくちゃと思った。そこにいるのは「恐怖」ではなく、弱々しく小さな身体で熱と闘う「ぽち」だったから。
 母さんに「僕が看病するから」と言い残し、自分の部屋に連れて行く。あとから、タオルと水を張った洗面器を持っていかなくちゃ。
 看病するから、と言ったはいいものの僕はドラゴンの看病の方法なんて知るはずがなかった。たぶん、世界中の誰も知ってるはずがないと思うけど。誰かが知ってればいいなと思いつつ、あいつの様子を見ながら僕はパソコンを立ち上げる。ブラウザを開き、「ドラゴン 看病」などと検索ワードを並べてみる。やった、何件かヒット!
 僕は小学生だ。英語は微妙にわかったとしてもフランス語だとかは解読できるはずがない。親切な日本語サイトなんて存在しなかったし。翻訳サイトなんて肝心なところで役に立たなかった。
 僕は無力だった。奴には何もしてやれない小さな存在にすぎなかった。もしかしたら、僕はそれを思い知らされることが怖かったのか?今はそんなことどうでもいい。
 誰に祈っていいのかわからなかったけど、祈りに祈った。普段僕は神様なんて非科学的な存在は信じていない。でも。神様いるなら頼むよ、神様!仏様でもいい。誰でもいいからこいつを、ぽちを助けてやってください!

 気が付くとだいぶ時間が経っていたようだ。僕は泣いていたのか、頬のあたりにしずくが伝ったあとがあった。ぽちはまだ少しぐったりとしていた。そっと身体に触れてやる。
 すると、少し重そうに眼をあけた。そのまま、身体をなでつづけてやると気持ちよさそうに身体を預けてくる。
「よしよし…」
 僕の口からことばが勝手にもれる。
 確かにそのとき、僕らは一緒に居た。今までの緊張を一気に溶かすような不思議な瞬間だった。
 窓の外が明るくなっているような気がしたけど、まだ夜明けにはなっていなかった。

 次に目覚めたとき、ぽちはいなかった。僕は探した。部屋のどこかで小さく震えてるんじゃないかって思ったから。
 階下から、いつものように母さんの呼ぶ声。適当に返事して、ふと思ってみる。ドラゴンなんてもしかしたらいなかったのかもな、って。僕の疲れたこころが生み出した幻想だったのかもしれない。

 少し落ち込みながら部屋を出ると…
 ぴぎゃ。
 聞きなれた声。
 ドラゴンは居た。
 いや、「ぽち」は「友達」である僕を待っててくれたのだ。
「なんだよ、お前」
なんて悪態を吐きながらも、ぽちを抱き寄せてやる。
 ぴぎゃ。
なにするんだよ、とか言いつつ、ぽちはもっと撫でて欲しそうにする。
 こうして、うちに新しい家族が増えた。犬じゃないけど犬みたいな、少し不思議な能力を持ったぽちが。
 犬じゃない、とかなんてどうでもいい。
 こいつはまだこどもなんだから僕が守ってあげなきゃ。
 そう思ってぽちを抱く腕に少し力を込めると、ぽちはぴぎゃ、と鳴いた。
 漆黒の瞳は、僕らの未来を映すようにきらりと光をはねかえしていた。
 それはもうすぐ夏がやってくる季節のことだった。
 夏になったら、海で一緒に花火でもしようか?


 《おしまい》


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