ユウも死んだ時、この場所に『自称天使』(もちろんユウではない)と居た。それから、芳人と同じく『しごと』を見せ付けられた。
 その時は何の違和感も無く、そうする事を承認した。
 しかし、その対象を知って驚愕する。
 身内と言う点では同じだが弟ではない。妻、だった。
 絶対に出来る筈が無い、そう思った。
 だが。
 自分が死んだ哀しみから、その命を絶とうとしている妻の姿を見てユウは酷く動揺した。
 自分の為に、という事実と、その苦しみを与えた後悔。そして、ほんの少しの嫉妬。
 その姿を見ていると、思わずその手に持った鎌を振り下ろしていた。

「覚えてないかな・・・」
 ぼうっとしたままユウは呟いた。
「なにを?」
「ああ、そうだ」
 芳人の言葉を無視しユウは思い出したように言った。聞き返しても仕方がないと分かっている芳人はユウの言葉の続きを大人しく聞いている。
「『永遠の苦しみ』・・・なんだったと思う?」
「・・・あ?」
「天使に、なる事だったんだ」
 天使になることで知人・見知らぬ人の命を奪っていく事、それが『永遠の苦しみ』だったのだ。
 しかし。
「ちょっと待て、じゃあ何でお前は・・・?」
 そう、それではユウが天使である説明がつかない。彼は妻の命を奪ったのだから。
「志願したんだ」
 自分のしたことが正しかったのか、間違っていたのかが知りたくて。
 こたえは、出てはいない。
 本当は芳人に同じ事をして欲しかった。そうして、同じ状況では『こうするしかない』という事実を与えて欲しかった。しかし、そうはならなかった。
 だけど、逆に良かったかもしれない。
 ほんとうに正しいことなんて、あるのかないのか分からないのだから。
「・・・俺も天使になるのかあ」
 しみじみと、芳人は言った。
 天使になることで、仕事をしていかなければならない。そうやって、ずっと生き続けなければならない。
 そう生きることはどんなんだろう、と思いをはせている芳人を尻目にユウは、
「いいえ」
 と、きっぱりとした口調で否定した。
「なんで・・・?」
「だって、君はひとつ命を奪ったから」
「?」
「ガラス瓶」
 物にも命、というか寿命は在る。それを奪うことも『しごと』のうちだったのだ。
「・・・でも、目標は違ったからもうひとつ『しごと』をしてもらいます」
「・・・何・・・を?」
「秀信君」
「は?」
「彼は・・・そう、寿命まで生きることになったから、その時に迎えに行ってやって?」
 その時になるまで、眠っていてもらいます。
 そう言って、ユウは手を翳した。
 すると、耐えがたい眠気が芳人を襲ってきた。
「・・・君は俺に似ているなぁ。さすがに、私の孫・・・。逢えて、良かったよ。秀信によろしく・・・な」
 薄れていく意識の中、ユウの声が響く。
 一番初めに覚えた奇妙は親近感の理由はそれだったのだ。
・・・思い出してみると、ユウに記憶の中にいる祖父の面影はあった。今目の前にいる姿は、恐らく若い頃の姿なのだろう。そして、祖父の名前は邑斗。だから、『ユウ』だったのだ。
 彼はどうするのだろうか?
 やはり、また理由を探して天使を続けるのだろうか?
 それとも・・・?
 ・・・まあ、いい。
 そう思うと、芳人は自ら目を閉じた。
 また、次に秀信に出逢う為に。


夢を見る。
ながくながく続く夢を。
安らかに、静かにずっと
次に目を覚ますことを待って。
ふたたび逢えるその日まで・・・―――


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