私は小池康夫。十九歳の大学生である。
家族は父正十郎と母純子、兄平蔵と私の四人構成である。まぁ、中流階級の一般家庭である。
とりあえず家族の紹介はこれぐらいにしておこう。
それより今、私は財政難に陥っている。手元の財源は空の状態(まず財布には258円、預金通帳の残高は124円なのでATMで引き落とすことも不可能)、税収(アルバイトの給与振込約6万8千円)まではまだニ週間余りの時間を要する。
なぜ、そのような財政難に陥ったか。それは今月最初の土曜の外交(ファミレスで食事、その後カラオケを3時間といった合コン)、設備投資(部屋に飾るアイドルのポスターとプラモデル)、不良債権(悪友からまだ3千円返してもらっていない)等が主な原因である。他に定期消費物(週刊少年漫画雑誌、毎週230円出費)があるが、現状のままではそれすらも購入不可能になる。
まずは普段お世話になっている銀行(兄)に借り入れを申し込んだ。しかし、貸し渋られてしまった。最近の銀行(兄)はもあまり経営状態が良くないらしい。
そこで総理(母、財政管理担当)に公的資金(おこづかい)の援助を要請した。
結果はというと予想通り却下された。理由は「今の政府(我が家)にそのような余裕は無い」とのことであった。
困ったことに政府(総理、母)の発言はこれだけではなかった。私の要請は受け入れられるどころか裏目に出てしまったのだ。
その日の晩に臨時国会(家族会議)が開かれた。その場でなんと総理(母)は「政府(我が家)は今後、衣料費の負担は各人のものとする方針である」と言い出したのだ。今までは報告書(レシート)さえ見せればその衣料品代は経費として支払われていた。しかし、ここにきて「税収の減少(先月、父の給与の一割カットが決定した)により、経費削減を断行しようと考えている。その一環として衣料費の各自負担を実施することとする。」と言い出したのだ。もちろん野党(私と兄)は猛反発した。その結果、とりあえずこの件に関しては保留になった。
これで話が終わるかと思いきや、総理(母)の政策発表はまだ続いた。それは「増税(父の給料から家計に回す分の引き上げ)」であった。これにより、国民(父)の所得から自由に使える金銭(おこづかい)が減ることは言うまでもない。しかし国民(父)は何も言えない。国民(父)は政府の圧制(かかあ天下)によって長年に渡り、沈黙を余儀なくされていたのだった。
次の日曜日、このままではいけないと我々三人(私・兄・父)は緊急対策本部を立てて会議を行った(喫茶店にて)。我々は一時間かけて国会提出(家族会議提言)草案を練り上げた。
野党(私と兄)としては我々を含めた国民(父)の痛みを和らげるため、総理(母)と闘うつもりである。そして私も公的資金(おこづかい)の援助を得なければならない。
その日の晩に国会(家族会議)第2ラウンドが開始された。三人(私・兄・父・)を代表して私は開口一番に発言した。
『現状は確かに厳しい。歳出(家計以外に回す分)をカットすれば財政赤字(生活費等の出費)を減らすことができる。それで財政(家計)は潤うかに見える。
しかし、それでは生活水準が落ちる(おかずが一品減る)。
また、税収(父の給料)を上げようと思うのであるならば逆に政府は財政出動(おこづかいアップ)によって労働者のやる気を起こさせることが肝要なのではないか。財政出動を行わなければ逆に労働者のやる気と体力が奪われ、思った程の成果が上げられないのではないか。その結果、企業の業績がさらに落ち込み、収入が減るという悪循環に陥る(私の場合はやる気を無くして成績が悪くなり、単位が取れなくなる)。
要は今ケチれば状態は今以上に悪化するのである。是非ともここは積極的に財政出動(おこづかいアップ等)を行うべきである。』
すると、総理(母)は情報開示を求めたわけでもないのに政府の損益計算書(我が家の家計簿)を見せてきた。そして総理は自分の主張をゆっくりと述べ始めた。
【今、財政再建に尽力しなければ破綻をきたす。見た通り政府の財政(家計)には一円の余裕もない。住宅問題(家のローン)、教育問題(康夫の大学の授業料)、貿易摩擦(今月に限るがお中元代)等の歳出に加え、税収(父の給料)の減少となれば当然経費削減を断行しなければならない。月の歳出を三十万円枠に収めなければならない状況にまできているのだ。
そこでどう経費を削るかであるが、衣料費(洋服代)、通信費(電話代)、エネルギー消費(光熱費)、そして食料の輸入(スーパーで買ってくる食料)を抑えようと考えている。これである程度財政は確保されることになるだろう。
増税で国民(お父さん)が辛くなるのはよくわかった。しかし、国民(お父さん)に与える痛みをできる限り和らげようと思ったとしても、現状では最低限の痛みには堪えてもらわなければならない。
よって増税(お父さんの給料から家計に回すお金アップ、お父さんのおこづかいダウン)は見送ることとし、現状維持の方向で改革を推し進めたい。経費の削減にも一同に協力してもらいたく思う。】
総理(母)は現状の厳しさと妥協案を出してきた。さすがにそれほど厳しいところまできているとは思っていなかった私は心が揺らいだ。総理(母)もただ圧政を強いているだけではなく、色々と考えているし、大変なのだと実感した。
そして私と兄は妥協案をのんだ。国民(父)は増税(おこづかいダウン)が見送られただけで満足だったらしく、にこやかな表情を浮かべている。
私は公的資金の援助(臨時のおこづかい)についてもう一度総理に尋ねようかと思っていたが、やはりやめにした。政府も大変厳しい状況にあるので、私も政府に協力し、また無駄遣いも控えようと思った。
やはりだ、欲しいものは欲しい。定期消費物(週刊少年漫画雑誌)の購入は一回でも切ることを許すわけにはいかない。情報の遮断につながるからだ(話が飛ぶとわからなくなる)。
そこで総理に、「公的資金を(おこづかい)をくれとは言わない。だから貸してくれ。」と要請した。総理(母)は一瞬顔を曇らせたが、渋々紙幣を一枚取り出し、渡してくれた(無利子、返済期限は私のアルバイトの給料日)。総理(母)もやはり、人の子であった。もっとも、融資してくれなかった時は総理に裏金がある(へそくりを台所に隠している)ことや過去に他人の財産を横領したことがある(私・兄が小学生の時、共にお年玉を勝手に使い込まれた。まぁ、返してはもらったが。)ということを国民(父)にばらすとゆすりをかけるつもりであったがその必要はなかったようだ。よかったよかった。本当によかった。
こうして総理(母)の構造改革(家計のやりくり)問題は一応解決した。しかし、私の財政難は次の税収(アルバイトの給与振込)まで続きそうだ。しばしの間(給与振込まで)、不況の波の中で闘うことにしよう。
そうだ、不良債権処理(悪友に貸した三千円のとりたて)でもしてみるか…。
ひとり呟いた深夜三時半だった。