次の日、悟くんの診療室へ行くと、悟くんはいなかった。井上さんは、「しばらくおやすみをもらうって言ってたわよ」と言った。
 きっとなんとかシステムとやらを直しにいくんだろうな。計画の方はどうなってしまうんだろう?
 悟くんの机に『葵ちゃんへ』と書いてある封筒が一通そっと置いてあった。
 あたし宛てだった。あたしは封筒を手にとった。封筒の中には、便箋が何枚かと何かの鍵が一緒に入れてあった。





『 葵ちゃんへ

 これを君が読むとき、僕は君のそばにいないだろうね。

 初めて君がここへ来たとき、思ったんだ。彼女の――未来ちゃんの妹さんだなんて、偶然にしてはできすぎているって。僕が精神科医になったのは、君の姉さんが眠ってしまった時、助けられなかったから。何もできなかったんだ。
 だから、妹さんだけは葵ちゃんだけは助けないとって。言葉では「葵ちゃんは葵ちゃん」だなんていってたけど、未来ちゃんを重ねてたってことは否定できない。

 でも。今、僕の君を想う気持ちは本物だよ。
 待っててくれなんて言えない。君の未来を制限してしまう権利なんて僕にはないから。
 僕が戻って来た時、君の気持ちが変わってなかったら、この鍵を受け取ってほしいんだ。僕の部屋の鍵だ。他に想う人が出来たら、これは捨ててしまってほしい。
 わかってほしいなんて、勝手なこと言ってるってわかってる。戻ってくるのがいつになるとか、戻ってこれるかなんてはっきり言えないのにね…
 でも、心配なんて要らないから。
樟 悟』

 初めて見る悟くんの字は少し角張ってて、右上がりだった。きっと何回も書き直したんだろうな、とか思うと、少し笑ってしまった。便箋にペンのあとが残ってる。
 もし、あたしが悟くんを好きじゃなかったらどうするつもりだったんだろう。それだけ、あたし態度に出てたってことなんだろうか?
 あたしの想いを甘く見ちゃいけないわ。あたしはあたしがキライなんてこと言ってられない。今が無ければ、未来なんてこのあとなんて存在しないのよ?
 高校卒業したら、絶対探し出してやるわ。
 だって。
 あたし、まだ好きって伝えてないんだから。

たぶん終。

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