2 失踪者、疾走。

「桃が!桃が!」
 あわてふためく李・三十二歳、桃がどうした?
「桃が転がって消えた!」
 騒然とする研究室。桃が消えただと?桃は大事に保管していたのに。早速、桃があるべきはずのところへ向かった。

「…李、おまえ何してた。」
 現場(研究室の裏庭である)にはホースと、そのホースによって撒かれたであろう水の跡。おまけにタワシがころがっていた。
「はい、洗ってました。」
と、述べる李。
「何を?」
と、聞き返す私。
「桃ですが、いけませんでしたか。」
と、答えてくれた李。おちゃめな彼(李は男性でした。表記してなくてゴメン!)には困ったもんだ。とりあえず、このあと彼の姿を見ることは当分無いだろう。とても残念であるが仕方ない。
「父さん、そんなことしてるより早く探さなくていいの?転がってからそんなに時間たってないわよ。」
 我が娘のもっともな質問にしばし、李を殴りつけている手を休めた。
「緊急手配だ。3キロ範囲で探せ。警察と軍にも協力してもらおう。」
 私は、すでに動かなくなった李を引きずりながら研究室に駆け込んだ。そして、机の上にある電話に手をかけボタンを押す。
 …見つかるのだろうか、この世を滅ぼしてしまうかもしれない怪物を。
 その頃、消えた桃はころころ転がっていた。山を越え、海を渡り、谷を飛び越え、茶店で一休みする姿がほほえましく思えた。
 意思をもっているかのような桃。
 水陸両用の便利な桃。
 転がるところ人気者の桃。
 なんとも言えないピンク色の桃。
 そんな桃が行き着く先は天国か地獄か?


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