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その事件が起きた事を知ったのは、木曜日の朝、丁度朝食を食べながらテレビのニュースを聞き流していた時のことだった。
「あら、この近所じゃない。怖いわね」
隣に座っていた妻がそう言ったのをきっかけに、私は普段から聞き流すばかりであまり見ることの少ない朝のニュースに目を向ける。
画面の中では歳若い女性レポーターが、我が家のすぐ近所の公園でなにやらレポート用紙の文章を棒読みしている。画面右下に映っている見出しには、『謎の猟奇死体発見』と書かれているのが見えた。
猟奇死体・・・これはまた物騒なことだと思いながら、私は味噌汁を一口飲んだ。
「死体に残ってた動物の噛み後って、犬のものじゃないんだって」
「お兄ちゃん、朝ご飯の時にそんなこと言っちゃ駄目」
一足早く朝食を食べ終えてテレビにかじりついている子供たちの話す声が聞こえる。
今年中学一年生になった息子と、小学三年生の娘は、今夏休みの真っ最中だ。
「二人とも、今日は家の外に出ないで大人しくしてなさいよ」
「はーい」
妻の言葉に二人そろって返事をするのを、私は席を立ちながら見ている。
妻や子供達は外出せずに済むが、生憎私は仕事の有る身だ。近所で殺人事件があったからといって、日長一日家でごろごろしているわけにも行かない。
鞄を取って身支度をしていると、娘がとことこと私の後をついてきた。
「お父さん、気をつけてね。知らないおじさんに声掛けられてもついて行っちゃ駄目よ?」
「はいはい。気をつけるよ」
玄関を出るとき、背中に妻の「行ってらっしゃい」という声が聞こえた。
私は靴を履きながら、今日も一日が平穏無事であることを祈る。
「遺体に残されていた歯型は、動物の鮫に酷似しており・・・」
テレビのレポーターがそう言うのが聞こえてきて、ふと私の脳裏に、幼い頃祖母に言い聞かされた昔話がよみがえる。
―影和邇がお前の影を喰ってしまうよ―
何故今それを思い出したのか、自分自身でも良く分からないまま、私は自宅を後にした。