「……ノハちゃん。コノハちゃん」
 あたしをゆさゆさと揺さぶる声がした。
「ン………?」
 あたしは、むくりと起き上がって、辺りを見回した。
 何だか眠ってしまったみたい。
 あたしを揺さぶって起こしてくれたのは、笑顔のおかあさんだった。
「おかあさん……?」
「おはよう、コノハちゃん。
 今日は随分、おねぼうさんなのね。もうとっくにお日様があんなに高いのよ」
 そうなんだ。あたし、結構寝ちゃってたんだ……。
「んぅ……おはよう。おかあさん」
「はい、おはよう。
 ご飯がもう出来ているの。こっちに来て、食べなさい」
「はーい」
 あたしはお布団から出ると、お母さんの後に続いて、とことこ歩いた。
「ねぼすけだなー。コノハ」
 あたしとおかあさんを待っててくれたのは、おとうさんだった。
「うん。ごめんなさい」
「でも、まあ、寝る子は育つだ。
 夜更かしなんかしているより、よっぽどいいな」
 あたし、ちょっとココロがちくってしたケド、知らない顔ですましていた。


 ご飯をみんなで食べ終わって、みんなでくつろいでいた。
 だけど、なかなかミコトちゃんはやって来てくれなくて、あたしはなんだかそわそわしていた。
「? どうしたの? コノハちゃん」
 あたしを見かねて、おかあさんがあたしに言葉をかけて来た。
「ううん。何でもないの。
 ところで、おかあさん?」
「なぁに?」
「あたしが眠っている間、誰か来なかった?」
 あたしの唐突なコトバに、おとうさんとおかあさんは顔を見合わせて、
「どうしたの? だあれも、来ていないわよ」
 おかあさんは、ちょっと首を傾げて、あたしに尋ねた。
「う……ううん! なんでもない!
 なんでもないヨ………」
 あたし、ごまかしてそう言ったけれど、
 お友達が来る、ってコトぐらいは、話してもいいカナ?
「えとね。あのー。
 おとうさん、おかあさん」
「なんだ?」
「どうしたの?」
 こっちを振り返ったおとうさんとおかあさんに、あたしは少し照れながら、
「今日、あたしの家に、お友達が来るの」
「友達?」
 おとうさんは、ちょっとびっくりしてから、すぐに笑顔になって、
「そうか、コノハ。それでそわそわしていたんだな。
 どんなお友達なんだ?」
「うん。とっても小さくて、可愛いの。
 最近お友達になったんだ。それで、誘ってみたの」
「まあまあ」お母さんは、あたしとおとうさんとのやりとりを聞いていて、
「それは大変。ちゃんとコノハちゃんのお友達に、おもてなしをしなくちゃ。
 そうね。
 この前、みんなで摘んできた野イチゴを使って、甘いケーキを作りましょう」
「ホント!」
 ケーキなんて、本当にたまにしか食べられないんだ。
「いいの?」
「ええ、構わないわよ。
 だって、今日は初めて、コノハちゃんのお友達がお家にやってくるんですもの。
 ちゃんとおもてなししなきゃ、ね」
「うん!」
 あたし、とっても嬉しかった。
 お友達がお家に遊びに来るのって、何て素敵なんだろう。
 あたしは、にこにこしながら、ミコトちゃんが来るのを待っていた。いつやってきてもすぐ分かるように、耳をぴいん、って立てて、ずっと待ってた。
 初めて出来たお友達が、ニンゲンだって知ったら、きっと二人ともすごく驚くぞ!
 あたしの横にくっついて座っていたおとうさんが、やっぱりちょっと嬉しそうな顔で、あたしに尋ねた。
「友達は、いつ来るのかな?」
「もうすぐ来るはずなの。
 あっ!」
 あたしの耳に、がさがさって音が聞こえた。足音だ!
 ミコトちゃん、やっぱり来てくれたんだ!
 おかあさんも聞こえたみたいで、ケーキを作る手を休めて、お父さんと同じ方向、足音の方向……ミコトちゃんがやって来る方向を見ていた。
 そして、ゆっくりとミコトちゃんの身体が見えてきて、あたしが声をかけようとした、その時。
 どんっっ!
「ぅぁ………!」
 あたしの身体が、急に吹き飛んで、後ろにいたおかあさんの所まで転がっていく。
「え………ナニ………?」
 あたし、がばって身体を起こした。その時分かった。あたしを突き飛ばしたのは、おとうさんだったのだ。
「おとうさん……?」
 あたしがおとうさんに駆け寄ろうと、足を少し出した。
 その瞬間、
「コノハッ!」
 びくっ!
 すごく怖い声で、あたしをおとうさんは叱り付けた。
「動くな! コノハ! そこに伏せているんだ!
 ナナミ! コノハをかばって、お前も伏せろ!」
 ナナミ……おかあさんの名前だ。でもあんな怖いおとうさん、見たコトない。すごく怖い……。
 あたしがぼおっと考えていると、おかあさんがあたしにふかっ、とかぶさってきた。地面に押し付けられたあたしは、何にも見えなくて、何にも分からない。
「おかあさん……?」
「黙っていなさい! コノハ!」
 おかあさんも、すごく怖い。それにふるえている。おかあさんの「こわい」っていう不安な気持ちが、あたしに伝わってくる。
 でも、どうして? なにが、おこったの?
 ただ、ミコトちゃんが来ただけ、なのに……。
「おかあさん……どうしたの?
 何が起こったの?」
 あたしが、何とかきゅうくつな中で、頑張って声を出すと、
「……人間が来たの。
 人間は、私達を殺しに来るの。いつも。
 棒で叩いたり、変なもので、一杯仲間が殺されるの」
「えっ……?」
 あたし、驚いた。
 ニンゲンって、あたし達をいじめるだけじゃないの?
 殺されるの? あたし達……。
「そんなコト……ほんとう?」
「ええ、そうよ。
 人間は、自分達の事しか考えないの。
 自分たちの都合で、わたし達の住む地球を汚しているのよ。
 簡単に命を奪って、簡単に……」
 おかあさんの息が荒くて、あたし、あんまり聞こえなかった。だけど、本当にニンゲンって、そんなに恐ろしいの?
 ミコトちゃんも、あたし達を殺すの……?
 あたし、泣きたくなった。声をあげて、逃げたかった。
 でも、
 違うよ。
 ミコトちゃんが、あたしの身体を撫でてくれたとき、あたし、とってもミコトちゃんって暖かいと思ったんだもの。
 すごく優しくて、ちょっと寂しんぼうで。
 あたしの、お友達になってくれて……。
「そうだ!」
 あたし、叫んだ。
 ミコトちゃん、あたしのお友達だもの!
 お友達が、あたしのおとうさんやおかあさんを殺すなんて、
 絶対無い!
「おかあさん、どいて!」
 あたし、がばっと抱きつかれているおかあさんから離れようと、精一杯身体を動かした。
「だめっ! コノハちゃん!」
 ずっとぎゅっと瞳をつぶっているおかあさんは、あたしの抱きしめる手を、強めた。
「行かなきゃ! おとうさん止めなきゃ!」
「ダメっ! 行っちゃ駄目っ!
 コノハ、殺されるのよっ! 行っちゃ、だめえっ!」
 こんなおかあさん、初めて見た。
 こんなに必死になって、いっぱい泣いている……。
 あたしも、いっぱい涙が出そうになった。
 だけど、
「殺されない! コノハ、殺されないの!
 ミコトちゃんは、ニンゲンだけど、あたしのお友達なの!
 あたし、殺されないよお!」
「ミ……コト……?」
 おかあさんが、何故か、ミコトっていう名前に驚いていた。
 その隙に、あたしはするりとおかあさんの身体から抜け出て、おとうさんの方に走り出した。
 おかあさんが何か叫んでいる。でも、聞かない。
 おとうさんは、小さな女の娘……やっぱりミコトちゃんだ! ミコトちゃんに乗りかかって、大きな口を開けて、噛み付こうとしている!
「おとうさん! だめええっ!」
 あたし、夢中で飛び込んだ。おとうさんとミコトちゃんの間に飛び込んで、ミコトちゃんの上に覆い被さった。
 同時に、あたしの身体に、痛みが走った。



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