「うーん……」
 身体がちくちく痛む感覚で、あたしはうっすらと瞳を開けた。どうやら、気を失っていたみたい。頭が痛いケド、苦痛じゃない。
 ぼんやりと辺りを見回していると、ミコトちゃんの姿を見つけた。ケガなんてしてない。大丈夫だった。
(良かった……)
 ちょっとほっとしたあたしは、もう少し首を動かした。そうしたら、おかあさんが見えた。おかあさんは、何かミコトちゃんと話をしているみたいだった。
 うまく聞き取れなかったケド、耳を伸ばして、寝転んだまま、二人の話を聞いた。
「……コノハちゃん、大丈夫だった?」
 ミコトちゃんが、少し心配そうにおかあさんに尋ねる。
「ええ。大丈夫よ。
 傷は浅いから、すぐに治るわ。でもウチの旦那さんの方は、自分の娘を怪我させちゃったって、寝込んじゃっているけどね。ミコトちゃんの事も、知らない人だったから」
 くすくすと笑いながら、おかあさんは答えた。
「別に、怒っていないよ。ちょっと驚いただけ」
 ミコトちゃんがそう言うと、ちょっとおかあさんは安心したみたいだった。
「でも、ミコトちゃんお久しぶりね。
 もう5年も前になるかしら」
 え……?
「そんなに経つの? 私、時間が経つのって良く分からないから。
 でも、すっかりナナミちゃんも、おかあさんになって」
 ミコトちゃんとおかあさんは、微笑みあって話していた。
 そう言えば、
 確かミコトちゃん、昔コギツネさんとお友達になった、って言っていた。それって、あたしのおかあさん……?
「ええ。
 まさか、事あるごとに喧嘩していたあの人と、結婚するなんてね。
 だけど、コノハの性格は、わたしに似てしまいました。
 気丈に振舞うんだけど、どこか寂しい気持ちがあって。
 私もそうだったから。だけど、そんな私を変えてくれたのは、ミコトちゃんだったの」
「そう?」
「うん。
 ミコトちゃんのチカラなんでしょ? 寂しい気持ちを感じて、その力になってあげるって。私の時もそうだったし、あの子の時も」
 ミコトちゃんは、少し前髪をかきあげて、
「最初は、そうだった。
 だけど、コノハちゃんは違う。自分の心の隙間を埋めようとしていたんじゃなくて、私とお友達になって欲しいって、言ってた。対等の立場に立ちたかったのね。
 それが、とても嬉しかった。
 いつも敬われて、ちょっと窮屈していたんだ。私も。
 すごく、楽しかったよ。夜通しコノハちゃんと喋った事」
 ミコトちゃんは、あたしの方をちらっと見て、言った。
 お母さんも、微笑んで、
「そうね。
 あの娘は、私の娘ですから。宝物ですよ」
 ミコトちゃんはおかあさんの方を向きなおして、微笑んでから、ゆっくりと立ち上がった。
「……時間、だから。
行くね」
 ミコトちゃんはゆっくりと、元来た道を戻ろうと、くるりと後ろを向いた。
「ミコト、ちゃん……?」
「ん……?」
 おかあさんのコトバに、ミコトちゃんは振り返る。
「コノハと、見に行っていいですか……?」
 ミコトちゃんは、静かに笑って、
「うん。いいよ」
 ゆっくりと、大きく息を吸って、
「だって、二人とも、大切なお友達だもの」




 あたしは、おかあさんにおんぶして貰って、森の高台に登った。おとうさんは寝込んじゃって、起きてこれなかったみたい。
 あたしとおかあさんが見ているのは、お社さんの《ホンドウ》っていう所なんだって。おかあさんが教えてくれた。神社で一番大事なトコロで、神様が住むところ、なんだって。
 今、あれだけ大騒ぎしていたニンゲンたちが、すごく静かになって、一杯ホンドウに押し寄せて、祈っていた。
 そうしたら、すい、とホンドウのトビラが開く。
 おかあさんが言った。ニンゲン達には、目の前で何が起こっているのか分からないんだって。あたし達みたいに、自然と一緒に生きてきた者だけが、見えるんだって。
 ホンドウからでてきたのは、ミコトちゃんだった。
 じっと、あたしは見ていた。
 ミコトちゃんは、捧げられていたお神酒(変な味の、水だそうなの)を、口に運んだ。
 そうしたら、
 ミコトちゃんの身体は光に包まれて、ふわりと空に浮かび上がった。浮かび上がるだけじゃない。ミコトちゃんは子供だったのに、手も足もスラッと伸びて、あっという間に大人の姿になった。
「人間たちの願いを叶えてあげるために、1年に1度だけミコトちゃんは大人の姿になれるの。
 そうして、1年間の平和という願いを叶えてあげたら、またミコトちゃんは子供になるの。それで次のおまつりが来るまで、誰にも姿が見えなくなるの」
 お母さんは、そう言った。
 大人になったミコトちゃんが祈ると、それが天に届いて、ニンゲンたちに、そしてあたし達に元気をたくさんくれるんだって。
 あたし、良く分からなかったけれど。



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