二頭の悪魔は、まず俺の部屋の壁を突き破り、広さのある外を戦場に選んだ。この壁が余りにも簡単に崩れ去った要因は、二人の悪魔が放出する瘴気による腐食などと言う小さな要素にはとても求められまい。二頭はその力に付随する封印を、徐々に破り去っていった。そして俺が部屋の瓦礫を掻き分けてその戦いを眼にしたとき、そこには氷の巨人と、それと猛然と格闘する真紅に燃える猛り狂った雄牛の姿があるばかりであった。
「じょ、冗談じゃねえぞこりゃ!ああっ!電柱が鉛筆のように!ああっ!行きつけのコンビニが紙箱のように!あああっ!隣の家(新婚夫婦在住)がトーフのようにぃぃっ!」
あっという間に街が焦土と化していく。くそっ!科学特捜隊は何をやってるんだ!高い防衛費使いやがって!・・・と、冗談はおいといて。
「本当に、どうすりゃいいんだ?」
とりあえず、逃げるか・・・。そう思って背を向けようとした刹那。
(・・・お待ちなさい・・・、河合、雄一・・・)
その声は、天の遥か上方から聞こえた気がした。
「は、はい?」
(目覚めるのです・・・。雄一・・・)
俺が天を見上げたその時!巨大な稲妻、いや光の柱が大音響とともに二頭の悪魔を分けるような形で大地に屹立した。雨雲はなぎ払われ、あたりは真昼のような煌々たる輝きに満たされた。
「ぬぅっ?」
「ミカエルかっ!」
二つの魔獣は、光柱を挟む形で互いに間合いを取った。天上から聞こえた声が、ふと近くなる。俺が目をこらすと、光の中心に翼を広げ、鉾を掲げた輝くばかりに美しい一人の女性の姿が見えた。
「・・・その通り。わたしは万能なる父の軍団を率いる大天使長、ミカエル・・・。偽証の雄牛ベリアル、並びに戦慄の雄山羊ディアブロ。この地上にて、父の被造物を破壊させはしません。即刻極界への退去を命じます。相い争うならば、己が土地、冥府で心行くまでそうなさい」
ミカエルは凛とした響きの、よく通る声で悪魔たちに告げた。
「そう言われて素直に引き下がると思うとるんか?」
「もとより我々のあいだに、言葉など必要なかったではないか。そうであろうミカエルよ」
二頭の悪魔はさっきまでのいがみ合いはどこへやら、口々にうそぶく。三者の緊張は嫌が応にも高まり、一触即発のように見えた。
『待て待て待てええぇぇぇーい!』
その時である!遥か東方の地平線から、三つの影が飛来するのが見えた。俺がよく目をこらすと、何とそれは空中をシェブロン(三角編隊)を組んで飛来する三人の男たちであった。
「と、飛んでるぅー?」
大抵の事は見慣れたはずの俺だったが、さすがに素で空中飛行する人間にはビックリだ。唖然と見つめる俺と、先頭の奴の目があった。するとその男は俺にウインクを返し、直ちに急旋回すると俺のすぐ目の前に着地した。
 三人の男達は、老人が一人、中年が一人、そして若者が一人という構成だったが、その誰もが蛍光色のアマレスタイツを身に付け、そして全員、思わず拍手を打ちたいぐらいの肉体美であった。
「んんんんん〜〜ッッッッ!俺達はアッ!」
「キリスト生誕を祝福した、東方の三賢者・・・」
「その、生まれ変わりィィィィッッツツ!」
各自筋肉を誇示しながら、意味不明の言葉を叫ぶ。どうやら自己紹介しているらしい。
「メルキオール!」
「バルタザール!」
「んんん〜〜ッッ!カスパァァアアッ!」
『三人合わせてェェエ・・・マギ・ブラザァァァァズゥッ!』
何かしらんが、キマッた。三人のマッスルポージングと輝く笑顔が、まったく無駄なかっこよさをかもし出している。
「やったのう兄貴!見事ハルマゲドンに間に合ったわい!」
「ふっふっふ、わしらが本気を出せばこんなモンじゃ」
ひとしきりキメ終わって満足したのか、男達はポーズを解いて和気あいあいと会話し始めた。
「・・・あの」
「んんっ?何だイ?」
俺はおずおずと、真ん中の立ち位置の老人(でもマッチョ)に話し掛けた。まぶしい笑顔と、白い歯がこっちを振り向く。プラークコントロールは完璧のようだ。
「そのポーズ・・・、めちゃめちゃ練習してません?」
俺がそういった瞬間、三人の漢の目からぶわっ、と涙があふれ出た。
「うおおぉぉー!感動じゃあ!ついに俺たちの理解者にめぐり合えたぜよぉぉー!」
「あっ、兄貴ぃぃ!やはりこの御方に間違いねえェェェ!」
「うむ!ワシには分かっておった!さっき目があった時から、全て分かっておったぞぉぉ!」
はて。どうやら言葉の意味を逆に取られてしまったらしい。そうこうしているうちに三人は円陣を組み、「兄貴!じゃあ、早速!」とか、「うむ、そうじゃな」とか、なんか勝手に段取りを進めている。
 やがて、リーダー格とおぼしき老人が一歩前に出て、三人が俺の前にひざまづいた。老人は重々しく、しかしクランチの効いた腹式呼吸で俺に告げた。
「・・・なにぶん急な話ですが、あなたは実は、イエスキリストの生まれ変わりなのです!」
・・・はぁ。
「あなたこそ、このハルマゲドンを収拾し、世界を救える世界を救える唯一の御方!」
・・・へっ?
「今こそ救世主、ジーザスクライスト・スーパースターに変身するのです!」
って、なにいいいいいいっ?
「さあ!このリストバンドをはめて、『ジーザスクライスト・リインカネーション!』と叫ぶのです!」
メルキオールとかいった老人マッチョが派手なリストバンドを、なんとアマレスタイツの中から大事そうに取り出した。バンドからは男のムスクがぷんぷん。おまけにギャ、ギャランドゥが!絡まってるよ!一本ちょろりと!
「・・・やだ」
俺は即答した。たちまち男達の表情が凍りつく。
「な、なんでじゃあああ!」
なんでって言われても。そんな大事なもんそんなとこに保管してて欲しくねえ。
「あの長き旅路は、なんだったんだああ!」
俺が聞きたいよ。
「選ばれし神の御子が、こんなチキンハート野郎だったなんてええ!」
だからそんな問題じゃないって。
「くうっ!仕方がない・・・。救世主がこの有り様では他に方法がない!」
「あ、兄貴まさか・・・」
「ふっ・・・。ついに、この時が来ちまったか」
男たちが急にイイ顔になり始める。
「みんな・・・。わしに命を預けてくれ。そして、そして・・・、来世で、必ずまた会おう!」
「ヘヘッ・・・。シカゴのフィットネスクラブで会った時から、俺の命は兄貴のモンさ」
男達は互いに光り輝くアイ・コンタクトを交わすとがっちりと円陣を組んだ。
「いくぞ!マッスル・トライアングル・フォーメーション!」
『おう!』
「ひとおつっ!輝く筋肉、戦士の証し!」
「ふたあつっ!あふれる愛こそ、父への信仰!」
「みっつっ!力の限り、命を燃やせ!」
『必殺!アァメイジィンングゥ・・・グレェェェェェイスッ!』
その次の瞬間、男達は光となった!その奔流は天を駆け抜け、今まですっかりその存在を忘れ去られていたディアブロ達へと突進する!・・・が。
ぺちっ。
哀れむべきかな、三マッチョ。男達の決死の一撃は、ディアブロの腕の一振りによってもろくも弾き飛ばされてしまったのである。
『無念じゃあぁぁぁ〜・・・』
黒鉛を吐きながら、遥か彼方へ墜落していくマギ・ブラザーズ。う〜ん、なんて人生浪費型な奴等なんだろう。ありがとう、マギブラザース!君たちの事は忘れないよ!まだ全員の名前と顔一致してないけど!


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