「・・・邪魔が、入ったのう」
ベリアルがその巨大な体躯をゆする。
「・・・本当にな」
ディアブロがそれに応じた。
「ほな、続きをやるかのう。え、大天使長さんよ。」
「救世主とやらに期待していたようだが、あのザマではとても使えまい・・・?」
二体の悪魔が、光の中で戸惑う天使をねめつける。
「くっ・・・、まさかこんな事になってしまうなんて。確かにあの三人性格に問題はあったけど、救世主を覚醒させられるのは彼等だけだったのに・・・!」
ずいぶんと説明的なセリフだ。俺はもしかして当てつけられているんだろうか。
「こうなったら最終手段しかないようね。河合雄一、こちらへおいでなさい」
「へいへい」
なんだか知らないが、俺はいつのまにか大変な事をしていたようだ。ここは素直に従っておこう。俺がミカエルの側まで寄ると、彼女は小声で話し掛けてきた。
「(ぼそぼそ)こうなったら仕方がありません。最後の手段を使います。」
「(こそこそ)どうするんです?」
そう聞くと、彼女はベリアルのほうをちらりと覗った。
「(ぼそぼそ・・・以下略)あなた、まだベリアルに願いを叶えてもらっていませんね?」
「はあ、そうですが。途中からうやむやになっちゃったんで、結局」
それを聞いた彼女は、満面の笑みを浮かべた。本物のエンジェリックスマイルだ。はじめて見た。
「ならば好都合ですわ。そのお願いで、『ミカエルのお・ね・が・い☆を一つ叶えてほしい』と、願いなさい」
「え?駄目ですって。あの人自分の気に入った願い事しか叶えてくれないんすよ。アホか、お前でお終いっすよ」
「それがチャンスなのよ!彼はナイスなボケな願いを聞いた後、必ずノリツッコミをかましてくれるわ。そこで彼がボケているうちにすかさず・・・」
「ミカエルさんが願いを言う、と」
「そう!それで悪魔の七軍団、そしてその奥に闇の皇帝として君臨してるアイツ・・・、ああ、名前を呼ぶのも汚らわしいわ!あの、裏切り者の蛇野郎を滅ぼしちゃうの!」
勝手にテンションを上げていく。なんか天使のイメージが・・・。
「あなたすごいわよ!もうキリストどころじゃない、天界の英雄なんだから!」
目を輝かせてあさっての方向を見る。彼女の目には、真珠の門でも映ってるのだろうか。
「・・・あの」
「なにかしら?」
目をキラキラさせたまま彼女が振り向く。
「ちなみにそのあと、俺はどうなるんですかねえ?」
「う〜ん、そうねェ・・・。悪魔に願いを叶えてもらったんだから、当然魂を奪われて永遠の暗黒と狂気に閉ざされちゃうわっ」
いやじゃん。
「でも気にしないで!あなたの名前は神と悪魔、その宇宙開闢より続く偉大なる闘争を、神の勝利のもとに終結させた人間として、永遠に黄金の歴史書の中に書き加えられるのよ!」
いやだって。
「自分一人の魂で、全宇宙の被造物を悪魔のくびきから救えるのよ!安いもんじゃない!甘ったれんな!」 「ん、ん、んな事はっきり言うなあああっ!」
(筆者注:天使は神の神聖な戒律に従って誠実に行動しています。だから嘘とか方便なんて、知ったこっちゃないんだね!)
「うるせえええええっ!」
「素直に従わないと、神の力で強制執行よ☆」
あ、悪魔よりひでえ・・・。
「・・・む。彼奴等、何か取引をしたようだな」
またも話から置いてきぼり食らった、ディアブロが言った。
「おう。そうみたいやな。・・・こら、なんとしても阻止せな」
「ふっ・・・いいのか?」
氷の悪魔が、いかばかりか柔らかな視線をベリアルに向ける。炎の魔獣の瞳も、どこかはるけき遠くを見ていた。
「ああいうおもろい人間は、いっぱい見てきたがの・・・。これも定めや」
欺瞞の帝王は、しかしその目をすぐに近距離を狙う猛獣のそれへと変えた。同時にディアブロの眼も、凍てついた深淵を取り戻す。
「へへっ、やっぱりおどれとの喧嘩はおもろいわ。・・・死ぬなよ」
「それは私も同じだ。貴様がばら撒いた流言を把握できねば、おちおち枕も高くできん」
二人の闇の将軍が地響きを蹴立てて突進する。目標は光の翼を持つもの、大天使長ミカエルであった。


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