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「晶介、お前という奴は……少しはあいつを見習ったらどうだ」
眼鏡の縁を触りながら親父はいつも怒っていた。
僕が高校生のころ、少し年の離れた兄はもう大学卒業を決め、近くの町の高校に行けることが決まっていたからだ。
そのころの僕は決まった夢もなく、やりたい仕事もないままに、ただ毎日を乗り切っていただけの高校生だった。
志だけは高い親父はそんな僕を見ていらいらしていたのだろう。いつものように兄を見習えといって僕を怒鳴りつけていた。
ごく自然に反抗心が生まれて、僕は余計に何もしたくなくなっていたものだ。
結局、親父の怒り方というのは昔のものでしかなかったわけだ。
「晶介、お前の兄さんはな、お前と違って高校に入るとすぐに教師になると言っていたもんだ。それに引き換えお前という奴は……」
それは違う、僕はいつもそう言いたかった。
親父は兄を立派な奴だといっていたが、とにかく要領がいいだけだ。親父の言うことを聞くように見せていれば何も言われないということをずっと前からわかっていただけだ。
僕はその点不器用で、自分の意志は通さなければ気がすまなかった。
「親父、晶介だって何も考えてないわけじゃないんだ、そうやって怒ってるだけじゃ解決にならないだろ?」
兄はよく僕をかばってくれた。
さすがの親父も出来た息子だといっている兄が割って入ってくるとそれ以上は何も言わなかった。
親父が沈黙に嫌気がさして部屋を出て行くと、いつも兄は僕に言っていたことがある。
「お前な、親父はああいう人なんだから、ちゃんとやってるって言っておいたほうがいいんだよ」
兄は親父に合わせてやれ、そういう風に僕に言っていた。
「僕は、嘘はつきたくないよ。兄貴みたいに教師になんかなるつもりはないし」
「そうか。でもな、親父だってお前がちゃんと生きていけるかどうか心配なのはわかってやれよ」
「わかってるよ、それくらい」
昔の僕の言葉といえばその程度のものだった。
人の気持ちは分かっていたんだろう。親父の思っていることを想像するくらいのことはやっていたはずだ。ただ、どうしてもいいようには受け取れなかっただけだ。
出来の悪い息子だと言われ続けて育った僕だ。何をやらせても完璧な男だった兄とは違いすぎる。
いや……完璧というのは言いすぎだ。兄は意外といい加減な性格だったはずだ。要領のいい奴、それが兄の本当の姿だった。
親父はそんな兄を見るのが幸せだったのだからそれでよかったのだろう。僕は親父にしてみれば必要のない子供だった。
「それはお前の考えすぎだろ、晶介?」
兄の言葉がよみがえる。
僕はどこまで兄に依存していたというんだ。
昔から、ずっとそうだった。