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最初にその音が聞こえたのは、俺の腕時計が正午をさした頃だった。近くの草叢が、ガサゴソと動いて、何か大きいものが動いてこちらにやってくる。
足音を忍ばせて歩いて来るそれに、俺はてっきり、やっぱり森の中だから猛獣がいたのかなと思った。で、当然その続きは、生き残ったと思ったらこれか世神様そりゃあんまりじゃないですか、とか言う心の叫び。
今にもそこの茂み辺りから顔を出すだろう猛獣に、クリスチャンでも無いのに俺は十字架を切った。
が。
「・・・・・・」
まず現れた色彩は、真っ白な髪の毛。
続いて、小さな頭に、細い手足、小さな体。
猛獣だとばかり思っていたのは、実は小柄な女の子だった。
女の子は、座り込んでいる俺の前で、何も言わずに首を傾げて立っている。
着ている服も、髪の毛も真っ白で、肌も勿論人形みたいに白い。良く見ると、その瞳は白じゃなくて銀色だけど、兎に角全体的に白い。
髪の毛にさしてある一輪の赤い花だけが、たったひとつ色を持つ事を許されているようにも見えた。
表情が殆ど無い顔は、面食いに定評のある俺が見ても、文句無しに可愛い。ちょっと吊り目だけど、吊り目の子は笑うと可愛いって言うし。
でも、何で一言も喋ってくれないんだろう、この子。
「あのー・・・」
ちょっとたまりかねて、俺の方から口を開く事になった。
「ここって、何処?」
女の子は答えない。
「俺の言うこと、わかる?」
今度は、首を縦に振る。
言葉自体は通じてるみたいだ。
「君は、この近くに住んでる人?」
女の子が頷く。
どうやら、俺みたいに、ここがどこか全く分からないわけじゃないらしい。
「もっと、人が多いところは、あるかな?」
試しに質問してみたら、彼女は何も言わずに、右腕を肩の高さまで上げて、真っ直ぐ、俺から見ると左側の茂みを指差した。
「あっちに行くと、人がいるの?」
質問に、彼女が頷くのを確認してから、俺はその茂みを軽く掻き分ける。
すると、そんなに離れてない場所に、道らしきものが見えた。
獣道ではない、少々小さいけれど、ちゃんとした人の通れる道。
道は丁度俺の目の前で曲がり角になっていて、その先が下り坂になっている。
「有り難う、この道を下っていけばいいんだ・・・ね?」
礼を言おうとして振り返ると、何故だかさっきの女の子は消えていた。
「あれ」
何処行ったのかな。
もしかして、狐か狸?
ばかされてるのかと不安に思ったけれど、俺はひとまず彼女を信用して、その道を下っていく事にした。
幸い、手にはしっかり学校に行く時のカバンを持っている。
でも、ポケットに入れたはずの携帯電話だけは、何処に行ったのかさっぱり見つからない。
連絡が取れないのは辛いけれど、大丈夫、きっと道を下って人のいる所まで下りていけば、電話の一本ぐらい借りられるさ、と、俺は前向きに考えながら、やっとこさ見つけた道を降りていく。
その考えが甘かったと、俺が心の底から思い知るのは、それから数時間後だった。