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謎ばかりのくせにやたらフレンドリーな二人に連れられて、俺が辿り着いたのは、少し大きな山小屋だった。
丸太で作ってあるが、丈夫そうな二階建てで、小屋の周囲には家庭菜園や小ぶりな納屋に見える小屋もある。家庭菜園はいろいろと野菜が植わっていて、その野菜こそ見たことは無かったけれど、生活観があることだけは見て取れる。
「ここ、あんたらの家?」
振り向いて俺が聞くと、二人は同時に首を振る。
「ここは、時折宿を貸してもらってる友だちの家だよ」
『美春の子』が説明しているのを聞いていると、山小屋から、誰かが出てくるのが見えた。
二十歳過ぎぐらいの年齢の、ハリウッド女優張りにゴージャスな感じの金髪美女・・・なんだけど、やっぱりファンタジーな服装をしている。ま、あのお姉ちゃんの場合は、女神様って感じでとても似合うんだけど。
家庭菜園のほうへ歩いていこうとしていた美女は、離れた場所に俺達三人が立っているのを見つけると、手に持ったザルを振り回して手を振る。
「獲物は取れたのか――い?」
こっちに聞こえるくらい大きな声で言う言葉に、俺の背後の二人は何も言わずに首を振った。
すると、首を傾げて、彼女はこちらに向いて歩いて来る。
歩いて来る美女は、近くに来るまで気付かなかったけど、背中に大きな刀の鞘を担いでいる。勿論、中身も入っているんだろう。
「なんだい、獲物も無いのに、変な客はいる。あんたらといい、今日は妙な日だねえ」
ざるを抱えて溜息をつく美女に、『美春の子』が何か疑問を覚えたみたいだった。俺のことをやんわりと脇へ押しやるようにして前に進み出る。
「他にも、何かあったの?」
「それがねえ・・・」
向かい合って会話している『美春の子』と金髪美女は、正直な話絵になる光景だった。多分、これが俺なら物凄く不釣合いな光景なんだろうなあ、と思う。
誰の所為でも無いのに惨めな気分の俺の前で、ザルを小脇に抱えた美人なお姉さんは、まるで俺が町の商店街でよく目にするおばはんそっくりの仕種で、自分の顔の目の前で手をふらふらと動かせる。
「珍しい事にね、そこの花畑に、『羽毛の蛇』が来てたのさ」
「・・・彼女が?」
「声をかけると、逃げちまったけどね。そういや、赤い花を一輪摘んでいったよ」
話を聞いてみると、二人の話題に上がっているのは、『羽毛の蛇』と言う名前の女らしい。それにしても変な名前の人間ばかりだなと俺は思ったんだけど、それはこの際考えない事にした。
蛇だなんて女性にしては色気の無い名前だけどね。
しかし、赤い花ってのがどうも気になる。
「なあ」
俺は、とりあえず二人の会話を邪魔しないように、後ろに立っている『氷雪の牙』に質問することにした。
真っ直ぐに立つと俺より頭半分以上余裕で背の高い男は、首を傾げるだけだったけど、それが応対か拒否かわからないままお構い無しに俺は質問する。
「あの二人が話してる『羽毛の蛇』ってさ、もしかして、真っ白な髪の女の子だったりする?」
『氷雪の牙』が黙って頷く。
「珍しいとか色々話してるけど、何で?」
俺の質問に、『氷雪の牙』が久し振りに口を開こうとしたのだけど、その途端おばはん喋りの美女が、いつのまに『美春の子』との会話を終了させたのやら、俺達に割って入った。
「ところで、この坊やは何処で拾ってきたんだい?身形といい気配といい、この辺の人間じゃないね」
いきなり人をさして坊や呼ばわりですかお姉さん。
「あ、その子はね、永井和也って言うんだって。狼取りの罠に落っこちてたんだ」
『美春の子』も全く坊や発言を疑問に思ってないし。しかも人の恥をあっさりばらしてくれやがりましたよこのお兄さん。
「坊や、どっから来たんだい?」
坊やじゃないです、大学生です。そして今年で十九歳です。
反論する隙を全く与えてくれない美女に、俺は一言も喋れなかったんだけど、そこでようやく、『氷雪の牙』が口を開いた。
「恐らく『迷い人』だ」
「へえ、久し振りだねえ」
何だか妙な呼称で分類された俺なんだが、それをあっさりスルーして美女が俺の顔をしげしげと見る。
「・・・なあお姉さん、『迷い人』って何?」
とても綺麗な顔を間近で見られるってのは物凄く嬉しいんですけど、正直な話照れ臭いです。そしてとても恥ずかしいです。
少し赤くなる俺に、彼女はあっさりと質問に答えてくれる。
「この辺の森には、幾つか違う世界に繋がってる穴があってね、木の洞だったり、洞窟だったりするんだけど、坊やはその中のひとつに、ちょっとしたきっかけで向こう側から落っこちたんだよ」
・・・要するに、ブラックホールとホワイトホールの関係ですか。何だか簡単な説明に、それで良いんだろうかと、俺は内心不安になった。
「帰れる方法とか、無いの?」
もう一度質問すると、今度は『美春の子』が答えてくれる。
「穴は一方通行だけど、流れを逆転させてくれる人はちゃんといるから、明日にでも案内してあげるよ」
またしてもご都合な説明だったけど、その一言は俺にとって物凄く有り難い。ちゃんと帰れるって言うからには、原理は不明でも俺は学校に帰れるってわけだ。
でも、明日って・・・?
首を傾げて腕時計に目をやると、その時計は午後三時過ぎをさしている。でも、上を見上げると、空はすっかり茜色だった。
「もうすぐ日が落ちるからね、麓の村に行くには大分かかるし、今日はうちに泊まっていきな」
小屋の方に帰っていく美女が笑っているのが聞こえる。
俺は、そりゃもう全身真っ白になりそうなくらいの侘しい気分に浸りながら、斜め後ろの男に一つだけ尋ねた。
「あの姉ちゃん、名前何?」
さっきは質問に答えなかった『氷雪の牙』は、今度はちゃんと、その上長い言葉で答えた。
「あれは『死の右腕』といってな、俺の剣術の師匠だ」
道理で強そうな名前ですね。
「・・・いくつ?」
「知らん。俺が子供の頃から既にあの姿だった」
そりゃおばはん口調なのも頷けますわ。
てゆーか、その『死の右腕』をあっさりと友だち呼ばわりした『美春の子』って一体何者なんだろうか・・・。どう見ても一番若いのになあ。
今自分がいる世界がわからなくなっている俺の頭上で、一番星がきらりと光った。