あたしが悟くんの診療室へ顔を出すようになって、数週間がたとうとしていた。期間は短いけど何回も顔出してたから、あたしは診療室の室長さんや看護婦さんたちとも仲良くなっていた。人見知りのあたしが珍しいんだけど。そして、樟さんのことを悟くんと呼ぶようになっていた。
 そんなのだから、あたしがそこに顔を出すと、誰かがすぐに悟くんを呼んでくれるようになっている。何回も来てるけど、そういえばあたし、診察室見たことないな。よし、お願いしてみようっと。
 看護婦の井上さんが悟くんを呼んできてくれた。
「わー、ありがとー」
「葵ちゃんが来ると明るくなって楽しいもの、ね?」
「えへへ」
「…この子を甘やかしちゃダメですよ、井上さん」
 笑うあたしを小突くようにしながら、井上さんにも笑いかける。そういうときの悟くんは人とのちょうどいい距離のとり方知ってるって感じがする。それって、あたしにも誰にもこころを許してないような感じがして少し淋しくなる。
「あとは若い人たちにまかせて…」
「もぉ、井上さんてばおばさんみたいなこと言ってー」
 井上さんも若いのにね。そんな感じで、ここは終始なごやかな雰囲気を持っている。そこに居てもいいんだよって全体で語りかけているようだった。


 そして、あたしは思い切ってお願いしてみた。
「ね、あたし、悟くんの仕事場見てみたいなー。診察室見てみてもいい?」
「見てもあまり面白くないと思うけど?」
 いつもの悟くんと違うような気がした。口調も態度もいつもと同じように見えるけど…。でも何か違う。
「見てみなきゃわからないよ」
 そう言ってあたしは、診察室へと入っていった。ドアに鍵はかかっていなかった。
 診察室の中は夢と同じだった。
 白い―。白い世界。

 あたしはそこで意識を失った。


「気がついたね?」
 夢のひとの声。誰だかわからない男の人の声。
「やっと、会えたね」
「誰…?」
 今度は声が出る。
「やっとって…あたし、あなたに会ったこと…」
 世界が歪む。頭が痛い。苦しい。イタイイタイイタイ…。
「ボクは君だから」
 あたしには言っている意味がわからない。それよりも苦しい痛い辛い。その場から離れたい。


 あとからやっと悟くんがやってきた。椿先生まで一緒だ。今までどこにいたのよ、あたしを独りにしないで…。どうして、先生と一緒なの…?
 そして、彼までもわからないことを言い出した。
「システムエラーみたいだ。やはり、計画は失敗だったようだ」
「まだ早すぎたのよ、この子には…」
「ね…何を言ってるの?」
 わからない。みんなどうしちゃったっていうの?
「ボクは葵に会えて嬉しかったよ。ボクは葵に嫌われてるみたいだけど」
 初めて会った子に、嫌われてるだとか…もうわからない。あたしは意識を離そうとしたけど、無理だった。


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